神楽坂で江戸前炭火焼「kemuri神楽坂」を運営するエンレスト(東京都新宿区神楽坂、代表取締役:岡田博紀氏)が、2012年12月31日中国・上海に「江戸前炉端焼kemuri 上海虹橋店」をオープンした。オープンから約半年、予約で満席になる日も多い同店は、上海で注目を集める店となっている。岡田氏は、飲食店経営のほか、中国展開サポート、講演などの活動を精力的に行ない、現在は上海店の初代店長として現場に立つ。「上海の日本料理店は約2,000店あると言われています。現地の客単価は、友人との食事で100~200元、接待利用で500元~が相場です。我々はその間のマーケットを狙い、客単価を300元に設定。このことで、デートから接待にまでシーンを選ばない店として利用されるようになってきています」。
今回の出店では合弁のリスクを考慮し、上海烟美餐飲管理有限公司を独資で設立。中国における外食ビジネスについて、岡田氏は次のように話す。「中国の外食市場が拡大していることは間違いありません。その点を踏まえて、日本企業が中国へ進出することのメリットは3つあります。それは利益率が高いことと、物件契約の保証金額が低いこと、税率が低いことが挙げられます」。日本では一般的に投資回収に3~5年かかるが、中国では1年半~2年半で回収ができる。営業利益率は日本の5~10%に対し、中国では20~30%が望めるという。また、保証金に関しては、家賃の2~3ヶ月分の初期費用でよく、契約満了することで満額返金が一般的だ。税率も法人税25%など、資金面でのメリットが多いことからも、中国における外食市場は有利市場であると岡田氏は分析する。
さらに、「中国をはじめ、そのほかのアジア圏では『タイムマシン経営』ができるメリットがある」と続ける。このタイムマシン経営とは、東京で10年前に流行していた業態やコンテンツが、今シンガポールや上海で流行るという意味だ。東京でのブームは未来に位置するため、次に何が流行るかが目に見えるという。日本企業には、業態やメニューコンテンツの開発力などの強みがあるため、現地でどのような業態や商品をつくるのがよいか、日本の持ち前の開発力を発揮すれば業態づくりでの失敗は少ないという。
上海店出店にあたり、岡田氏は2012年1月から現地に滞在している。そこで、物件探しや市場調査、資金調達などを行なったという。「出店は日本の100倍大変でした。向こうは売手市場のため、物件契約の値段交渉ができないのが現状です。高いと思って値引きをお願いすると、『じゃあもっと高く払うところと契約する』と一蹴されるのです。また、施工会社も慎重に選ばなければスケジュールが大幅に遅れたり、高い追加施工費を要求されたりしてしまうので注意が必要です」と岡田氏は警鐘を鳴らす。
一方で出店後は「日本の半分の苦労」だという。これは全権限のある岡田氏が現場に立つことで、従業員マネジメント、販促やメニュー改善などにすぐ対応できる強みを活かしていることも要因の一つ。また、スタッフ教育には力を入れ、毎日30分のミーティングで顧客情報の共有を行なっているという。同社のビジョンは「日本のおもてなしを世界へ」。上海店で神楽坂店と同様のおもてなしを体現している。
「今、中国に危機感を抱いている経営者も多いと思います。しかし私は、選択肢の一つとして、中国を今一度見直していただければと考えているのです」。岡田氏の今後の展望は、上海で5店鋪。2014年末までには2号店の出店を計画しているという。
(取材=虻川 実花)