東南アジアの中でも高い経済成長率を誇ってきたカンボジアですが、2026年9月現在、同国の外食市場は極めて厳しい「三重苦」に見舞われています。
現地で取材を進めると、外食企業や日本人駐在員を取り巻く環境は一変していました。
物流コストの爆増、相次ぐ便乗値上げ、そして治安に対するネガティブイメージの拡散による顧客離れです。
今回は、現地情勢のリアルな歪みと、この難局を打ち破るために現地の飲食店が打ち出すべき具体的な解決策をお届けします。
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1. 物流途絶と「便乗値上げ」が圧迫する原価率
最大の打撃となっているのが、タイとの国境における緊張状態の長期化です。
物流ルートが制限されたことで、タイから輸入される食肉、調味料、野菜、そしてエネルギー関連の調達コストが跳ね上がりました。
しかし現場で真に深刻なのは、単なる物流費の高騰だけではありません。「便乗値上げ」の連鎖です。
タイからの輸入食材とは直接関係のないローカルの仕入れ先や中間業者までが、「燃料費が上がった」「輸入が止まっているから」と理由をつけて一斉に価格を引き上げています。
これにより食材原価率が数か月前と比べて5〜10%近く跳ね上がった店舗も珍しくありません。
値上げを価格転嫁しようにも、後述する客足の激減により、安易な値上げが命取りになるというジレンマに陥っています。
2. 広がる治安不振のイメージと、消えた「常連客」
もうひとつの深刻な問題が、沿岸部の都市シアヌークビルを中心とした国際犯罪組織の取り締まり強化です。
カンボジア政府はサイバー犯罪やオンライン詐欺の拠点を摘発し、連日のように逮捕者を発表しています。
これは本来、治安改善に向けた「正常化へのプロセス」に他なりません。
今まで野放しにされていた違法組織にようやく手が打たれ始めたという側面があります。
しかし、政府や警察による治安改善の広報アプローチ(PR)が不十分なため、
外部やメディアからは「カンボジアで犯罪が急増している」「治安が急速に悪化している」という正反対の印象を与えてしまっています。
このネガティブな報道や噂の影響は、首都プノンペンにまで波及しています。
外国人駐在員や現地富裕層の間で外出や夜間の外食を控える動きが広がり、企業の出張者も激減。
これまで日系・外資系飲食店を支えてきた「高単価な常連客」が街から姿を消しつつあるのです。
3. 現場が打ち出すべき「3つの解決策」
コストの高騰と顧客の縮小。この厳しい市場環境を乗り切るために、飲食業従事者が今すぐ取り組むべきアクションはどこにあるのでしょうか。
現地で生き残りを図る先駆的な店舗の事例から、3つの解決策を導き出しました。
①タイ依存からの脱却と「地産地消・代替ルート」の再構築
タイからの物流ルート滞留を前提とし、サプライチェーンの抜本的な見直しが必要です。
ベトナム経由の仕入れルートの確保はもちろん、カンボジア国内の有機農家やローカルの畜産業者と直接契約を結び、仕入れの中間マージンをカットする動きが加速しています。
地場食材を活かしたメニュー開発を行うことで、便乗値上げの影響を最小限に抑えつつ、原価率を安定させることが可能になります。
②「絶対的な安心感」を提供する空間づくりと発信
客足が遠のく最大の理由は「なんとなくの不安感」です。
だからこそ、飲食店側が意図的に「安全・安心のオアシス」であることをアピールする必要があります。
*セキュリティの視覚化: 警備員の配置、明るい駐車場や店頭の照明、送迎車手配サービスなど、来店から帰宅までの安全を保障するアプローチ。
*SNSでのリアルタイム発信:現在のプノンペンの日常や、賑わっている店内の様子を動画で日常的に発信し、「街は落ち着いている」という事実を継続的に顧客へ届けることが重要です。
③駐在員依存を脱し「ローカル富裕層・ミドル層」を掴む
減ってしまった外国人駐在員だけに依存するビジネスモデルは限界を迎えています。
今アプローチすべきは、カンボジア人の若手起業家やローカルのアッパーミドル層です。
彼らは治安報道に過剰反応することなく、日常的に外食を楽しんでいます。
ローカル客が好みやすいポーション感や価格設定、SNS映えする内装や体験価値を付加し、ターゲット層をローカルへ広げることが、安定した収益基盤を作る鍵となります。
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おわりに
現在のカンボジアは、一見すると試練の時期を迎えているように見えます。
しかし、過渡期における混乱の裏には、従来の「輸入頼み」「外国人頼み」だった外食産業が、より強固な体質へと生まれ変わるためのヒントが隠されています。
厳しい環境下だからこそ、真に価値のある店舗、変化に柔軟な経営を行っているお店が選ばれる時代に入ったと言えます。
現地の変化をいち早く捉え、次の一手を打っていきましょう。
編集長コラム
2026.09.25
「逆風のカンボジア」で外食市場はどう生き残るか?タイ緊迫化と治安悪化報道の影で踏ん張る現場からの知恵

菅野 壮紀(かんの たけのり)
APPLILAB SINGAPORE CEO
飲食業界向けITソリューションを提供するAPPLILAB SINGAPOREのCEO。
シンガポールを拠点に、東南アジアを中心とした世界の飲食トレンド、Food Tech、店舗経営の最前線を定点観測している。
現地のリアルな事情に精通し、日本の飲食企業が海外の知見を取り入れるための架け橋として活動中。
https://applilab.sg/
























