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【マレーシア発】クアラルンプールの高級住宅街に4月26日オープン、ハラル認証牛肉で高級和食料理を紹介する「金牛」

看板や店名はなし、外から見えるのはこの金の牛の頭のみ。シークレット感を打ち出すことでグルメな富裕層に響かせる。
全席個室の72席。間仕切りを開けることで大人数にも対応、地元の要人などVIP客専用の個室と出入り口もある。
ハラル認証牛肉を使ったすき焼き、しゃぶしゃぶを提供。マレーシアで鍋料理は一般的だが、日本式の肉鍋がは初めてという客がほとんど。食べて歓喜するという。
様々な国籍のスタッフを抱えるが、朝礼は日本の飲食店と同じスタイル。「なぜこのサービスをするのか」という理由をよく説明する。
代表取締役の古谷氏(右)と料理監修を行うシェフの嶋田氏(左)。1号店立ち上げから共に歩んで来た。

「すき焼きやしゃぶしゃぶなどの牛鍋メニューと和食料理を提供する『高級肉割烹』」がコンセプトの「金牛(きんぎゅう)」が4月26日、オープンした。場所はDesa Sri Hartamas(デサスリハタマス、通称「デサスリ」)。デサスリは日本人駐在員家族や外国人が多く住む、クアラルンプールでもハイエンドな住宅街からすぐのエリアだ。こだわりの独立系飲食店が集まり、東京で言えば麻布十番や中目黒、下北沢に近いだろう。

焼き鳥、焼肉に続く新業態の3号店

運営はback street innovations Sdn. Bhd.(クアラルンプール、代表取締役:古谷厚太氏)。今回の「金牛」のオープンの経緯は4年前にさかのぼる。東京でアパレル業などを営むバリューイノベーション株式会社の代表取締役・南和繁氏と、日本橋や月島でドミナント戦略を展開する外食企業、株式会社バイタリティの代表取締役・岩田浩氏がパートナーシップを組み、2015年にクアラルンプールで焼き鳥店の「鶏鬨(とりどき)」を開業、2017年には焼肉バルの「新日本焼肉党」もオープンし、繁盛店に育て上げた。ちなみに両者をつなげたのは、同じくクアラルンプールで複数の飲食店を展開するKen&Taro Consulting代表取締役の恵島良太郎氏である。

そして南氏に連れられてマレーシアに渡り、鶏鬨と新日本焼肉党の運営を任され、軌道に乗せたのが古谷氏だ。ムスリム(イスラム教信者)やヒンドゥー教信者が多いマレーシアでは、市場に出回る牛肉の供給量が日本より圧倒的に少ない。
「僕は日本に一時帰国するたびに、まず羽田空港の焼肉店に駆け込みます。マレーシアに住んでいると、そのくらい牛肉が恋しくなる。マレーシアの食に興味のあるお客様も、きっと僕と同じようにおいしい牛肉料理が食べたいのでは、と思ったのが金牛立ち上げのきっかけです。その後、1年の準備期間を経て今回のオープンに至りました」(古谷氏)

ちなみにイスラム教やヒンドゥー教信者の客と聞くと「一切牛肉NGなのでは」と想像しがちだが、牛の屠畜方法に一定のルールがあり、それをクリアすれば問題ない。日本国内でハラル認証取得済みの加工業者は複数あり、牛肉はそこから空輸で取り寄せるようにした。野菜は高原リゾートとしても知られるマレーシア国内のキャメロンハイランドから、高冷地で育った厳選野菜を使っている。

すき焼き、しゃぶしゃぶから茶碗蒸しまで

同店の主力メニューは「Suki Yaki Hot Pot すきやき 〆のうどん付き (上 2〜3人前300リンギット/以下1RM、約7,800円)」、「Shabu  Shabu  Hot Pot しゃぶしゃぶ(2〜3人前RM300、約7,800円)」。注文が入ると、スタッフは食材をプレゼンテーションしてから客の目の前で仕上げる。マレーシアでHot Pot(鍋料理全般を指す)は人気で専門店もたくさんあるが、メニューは中国の火鍋などで、すき焼きとしゃぶしゃぶは知らない人がほとんどだ。客は目を丸くしながらスマホで動画を撮り、食べてみてまた感激するという。メニューにはステーキもあり、こちらはあらかじめ備長炭でレアに焼いたものを加熱した溶岩プレートと一緒に客席に運び、好みの焼き加減に仕上げて食べてもらう。

そして肉料理の他、「茶碗蒸し(和牛そぼろの茶碗蒸し RM16・約410円、ほたてと雲丹の茶碗蒸し RM18・約460円)」、「練り豆腐(くるみ 、ゴマ各RM14・約360円)」、「大学芋(RM13・約340円)」、「和牛そぼろのきんぴら(RM20・約520円)」など和食の小品メニューも多数そろえる。現地スタッフへの料理指導は、株式会社バイタリティの取締役・嶋田雄介氏が1号店の「鶏鬨」立ち上げ時からすべて担当。飲食業界で経歴20年以上になる嶋田氏が、肉の切り方や扱い方を伝えるところからメニュー開発まですべて行い、古谷氏と共に歩んできた。

「わかりにくい演出」がグルメ層に響く

客のターゲットは「マレーシアで、食に強い興味がある人」。あえて看板や店名は出さず、見えるのは入居するビルの壁にひっそり掲げる、金色の牛のモニュメントのみ。入り口に立ってもそっけない木の扉があるだけで、それがレストランなのか、店かどうかも一切わからない(写真1枚目)。クアラルンプールでは外観にこのようなシークレットスタイルを通す高級店が増えており、富裕層に「グルメな店の証」として認識されている。

オープンから3週間で(取材時)、同店の情報を聞きつけたローカルの美食家たちが次々と訪問。7割が地元在住のカップルや家族連れ、芸能人のVIP客などで、残り3割は日本人の駐在員が占める。ムスリムは酒を飲まないため、客の利用動機のほとんどは食事メインだ。

日本での常識がマレーシアでの感動に

古谷氏に、客層など開業前の狙い通りに進んでいるか尋ねると、
「鶏鬨や新日本焼肉党のオープン時もそうだったのですが、ターゲットや狙いは正直、細かく決めていません。売上は重要ですが、それよりも食べることが好きなローカルのお客さまに、いままで食べたことがないものを紹介したい思いが強い。すき焼き、しゃぶしゃぶ、茶碗蒸しなど日本人はなじみの料理でも、マレーシアで出すと『えー!なにこれ?!』と驚いてくださる。日本の食文化を紹介することでお客さまに感動を与え、それが自分の感動にもなり、最後は売上となって会社にプラスになるいまの好循環を、楽しんでいます」(古谷氏)

料理指導に当たる嶋田氏も、
「日本での試作とマレーシアに来て作るものとの間には味ブレが常に起こり、また食材を揃える大変さなどもあります。しかし現地のスタッフは一生懸命働くので、その点では日本より楽かもしれません。今後もマレーシアのお客さまに喜んでいただけるメニューを積極的にご提案したいと思っています。お客さまもスタッフも、みんなが幸せになれる店に育ったら嬉しいです」とのこと。

まずはこの金牛をしっかり走らせて行きたい、と語る古谷氏。その大きな挑戦は、いま始まったばかりだ。

(取材=フードライター 浅野陽子)

店舗データ

店名 KIN GYU(キンギュウ)
住所 No.8-1st Floor, Jalan 24/70A Desa Sri Hartamas, Kuala Lumpur.
アクセス Mont Kiaraから車で3分
電話 60-3-6206-3515
営業時間 Dinner 5:30pm〜(L.O. 0:00am)
定休日 なし
坪数客数 85坪72席
客単価 MYR150〜180
運営会社 back street innovations Sdn. Bhd.
オープン日 2019年4月26日
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関連ページ 鶏鬨はなれ 勝どき清澄通り店(記事)

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