刺身を主体とする日本食ビュッフェレストラン「HANAMI」が、カンボジアに新しい風を吹き込もうとしている。同国ではこれまで、本格的な日本食を出す飲食店が限られていたが、同店は新鮮かつ厳選された食材を使い、質の高いサービスとともに提供するスタイルを導入。カンボジアの首都プノンペンの中・高所得層を中心に、地元の人々を引き付ける狙いだ。プノンペンに現れた「HANAMI」とは、いったいどんなレストランなのか。同店の動きを追ってみたい。
カンボジア人は刺身が大好き
2013年5月にオープンした「HANAMI」は、シンガポールのイート&スマイル・アジア社が展開する。200坪の店内に、200席以上の席数を誇る大型ビュッフェレストランだ。取締役を務める小柴眞氏によると、同店はプノンペンの高級住宅地に立地し、近隣に住む富裕層に加え、このところカンボジアで増加している中間層をターゲットとする。スタッフは現在、40人ほど。
提供するのは刺身、すし、てんぷら、惣菜、焼き鳥、たこ焼きなど多様な日本料理だ。
価格はランチが9米ドル、ディナーが18米ドル。長きにわたる内戦により社会・経済が大きく疲弊したカンボジアだが、現在は平和な時代を迎えている。さらに、昨今の経済成長に伴う個人所得の伸びを受け、プノンペンではこうした金額を外食に振り向けられる層が出てきているのだ。そんな中、「HANAMI」がコンセプトとするのは、カンボジアで本物の和食を提供することだ。
日本企業の対カンボジア投資の拡大に足並みをそろえるように、プノンペンでは日本食レストランが増えているという。ただし、そうした店では、日本人が満足するような”本当の日本食”が食べられないケースもあるようだ。そこで、「HANAMI」は、味や素材の質にこだわった本格的な日本食を提供することで、カンボジアの人々に本物の日本食を伝えたいとする。
そこで、売りとするのが、新鮮な刺身だ。「カンボジアと刺身」という組み合わせを意外だと感じる読者も多いだろう。
だが、カンボジアではここ最近、日本食が広まるのに伴い、富裕層や中間層を中心に刺身が少しずつ浸透しているという。サーモンやマグロの刺身が好評で、とりわけ脂ののったサーモンが人気のようだ。また驚くことに、刺身を一度に食べる量は日本人以上だというのだ。
ただし、ビジネスインフラが十分に整備されていないカンボジアで、新鮮な食材を調達するのはそう簡単なことではない。一方、イート&スマイル・アジア社は食材の卸事業の実績が豊富なため、食材の発掘から物流まで多岐にわたる飲食事業の経営ノウハウを持つ。そのため、同店では、日本、タイ、インドネシア、ベトナムといった国で質の高い鮮魚を発掘し、調達するルートを確保しているのだ。
すき焼きビュッフェも計画
同店はまた、今後、すき焼きのビュッフェを導入することを検討している。価格は1人当たり28米ドルを見込む。アジアでは、日本のように卵を生で食べることは、衛生面から難しいとされるが、同店では、調理スタッフの試行錯誤により、主にサルモネラ菌の病巣殺菌などを可能とする調理手順を確立。新鮮な生卵を提供できる目処がついたという。
日本以外の国では、すき焼きに生卵を付けて食べることに抵抗のある人もいるように思える。しかし、「HANAMI」のカンボジア人スタッフの中で、日本訪問時にすき焼きを食べ、「生卵を付けて食べるすき焼きはおいしい」と感激した者がいるといい、カンボジア人にも日本風のすき焼きの食べ方が受け入れられると予想されるという。
カンボジアでは牛肉を食べる習慣があることも、これを後押ししそうだ。
「カンボジア社会の発展に貢献したい」
このように日本料理を積極的に導入している同店だが、同時に、サービスにも力を入れている。サービスという概念があまり浸透していないカンボジアにあり、同店では顧客への丁寧なサービスの提供を目指し、スタッフ一人ひとりに日本流の「おもてなしの心」を教えているという。
これに、スタッフも応えてくれている。スタッフは20代の若者が中心だが、カンボジア人の若者は向学心が旺盛な上、一度覚えたことをきちんと実践できるなど、優秀な人が多いようだ。
また、ひとつの業務だけではなく複数の業務をできるようなスタッフ育成プログラムを取り入れており、スタッフのスキルアップにつながっている。「HANAMI」で仕事をすると、マルチタスクに対応できるようになり、スタッフ自身にとっても大きな強みになるそうだ。
ただし、カンボジアではスタッフの引き抜きも活発だ。とりわけ「HANAMI」のスタッフは「仕事ができる」と評判で、せっかく育てた人材が引き抜かれてしまうケースもあるとか。スタッフが抜けてしまうことは痛手だが、転職の多い新興国では避けられないことかもしれない。一方、小柴氏は、こうした人材育成事業がカンボジアという内戦の歴史を持ち、人材育成が急務となっている国に対する大きな貢献につながるとみている。
同時に、力を入れているのが、衛生面だ。刺身やすしを扱うことから、スタッフを対象とした衛生面の教育を実施している上、利用客にも手洗いを推奨している。
カンボジアでは、衛生管理の悪さが深刻な疾病を招くことも少なくない。実際に乳幼児が下痢や呼吸器感染など予防・治療が可能な疾患にかかり、これが重症化して亡くなるケースが少なくないとされる。このため手洗いを広めることの意味は大きいのだ。
小柴氏は「事業を通じてカンボジアに貢献したい」と強調する。本格的な日本料理の提供に加え、人材育成や衛生面の啓蒙活動など、短期的な利益のためではなく、カンボジアの社会と人々への貢献を念頭に置く同店。カンボジアという新たな市場で今後どう展開を広げるのか。あるいはほかのアジアの国での進出の可能性など、「HANAMI」と、それにかかわる人々は、今後も話題を振りまいてくれそうだ。
(取材=巣内 尚子)
店舗データ
店名 | HANAMI - SASHIMI BUFFET RESTAURANT |
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住所 | No.23 MAOTSE TOUNG BLVD(ST.245)CORNER ST.63 BOEUNG KENGKANG1, CHAMKAMORN, PHNOM PENH |
電話 | +855(0)70-389-100 |
営業時間 | ランチ 11時~15時(Last Order 14時半) ディナー 17時~22時(Last Order 21時半) |
定休日 | 1月1日 |
坪数客数 | 154坪 246席 |
客単価 | ランチ $8.66、ディナー $16.56 |
運営会社 | Eat and Smile Asia Cambodia Co.,Ltd. |