海外の都市を歩いていて、ここ数年で圧倒的な変化を感じることがあります。それは、「どこに行っても韓国料理店が賑わっており、しかも単価の高いプレミアムなポジションを確立している」ということです。
アジア諸国はもちろんのこと、欧米や中東、南米に至るまで、サムギョプサルや韓国チキン、ヤンニョムカルビを求める現地の人々で連日満席。かつて海外の日本食が「寿司・天ぷら」で世界を席巻したように、今や世界のフードトレンドの主役の一角に韓国料理が躍り出ています。
「K-POPや韓国ドラマのブームに乗っているだけでしょ?」
もしそう思われているとしたら、非常に勿体ない見解です。実はその裏には、国を挙げた極めて合理的かつ力強い「外食の輸出戦略」が存在しています。今回は、海外を巡る中で見えてきた韓国外食産業の「強いビジネスモデル」と、そこから日本の飲食業従事者の皆さまが学べる知見をお届けします。
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①「美味しいから」だけではない。国(官公庁)が仕掛ける圧倒的なバックアップ
韓国料理が世界中でこれほど急速に広がった最大要因は、「民間企業の努力に加え、政府・官公庁系組織による強力で組織的な支援があるから」です。
韓国では「農林畜産食品部」や「韓国農水産食品流通公社(aT)」といった国の機関・政府系組織がフロントに立ち、自国の食文化を世界に広めるための国家プロジェクトとして外食輸出を位置づけています。
具体的な支援の手厚さは、日本の比ではありません。
1. マーケティング・市場調査の全面支援
進出したい国の消費動向や法規制、物件情報などのデータを国が収集し、事業者に提供します。
2.デザインやブランディングのパッケージ化
海外で「ウケる」内装デザインやメニューブックのローカライズ、ブランディングのノウハウを標準化し、現地出店する事業者に手厚い補助を出しています。
3.現地食材ルートの開拓と物流支援
コチュジャンや調味料、特定の食材など、味覚の核となる原材料を安定的かつ安価に海外店舗へ届けるための物流インフラを国が主導して整えています。
つまり、個々の飲食店が「点」で海外に突撃するのではなく、「国がプラットフォームを用意し、その上で民間事業者が「面」となって攻めている」のです。
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②マクロな目で見る「外食ビジネスによる国庫還元モデル」
この仕組みの本当の凄さは、「世界中で外食店が儲かることで、巡り巡って韓国の国庫が潤う」という循環モデル(マネタイズ構造)が出来上がっている点にあります。
海外で韓国料理店が1店舗増えると、どうなるでしょうか?
* 店舗で使う専用の調味料やタレ、食材(キムチや海苔、特定の肉のカットなど)は、韓国本国から輸出されます。
* 店内で使う厨房機器やテーブルの焼き肉ロースター、食器類も韓国製が導入されます。
* 店舗のブランディングやフランチャイズ(FC)本部に支払われるロイヤリティは、本国の企業に入ります。
結果として、海外の店舗が売上を伸ばせば伸ばすほど、「本国の農業・製造業・食品加工業・物流業が潤い、最終的に税収として国庫に入る」仕組みになっています。
外食を単なる「接客サービス業」として捉えるのではなく、「自国の一次産業や工業製品を世界に売り出すための最強のショールーム(出口)」として国全体で再定義しているのです。このマクロな視点とビジネスの連動性こそ、私たちが最も学ぶべきポイントと言えます。
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③ なぜ日本は同じように動きにくいのか?
一方で、私たちの国・日本に目を向けてみましょう。日本の食文化(和食・居酒屋・ラーメンなど)は、世界中から間違いなくトップクラスの絶賛を受けています。「味」や「接客クオリティ」において、日本が劣っているわけではありません。
しかし、海外展開という文脈においては、「日本は構造的に大きく動きにくい現状」があります。
* 縦割り行政と支援の分散
農林水産省、経済産業省、観光庁など、食や海外進出に関わる窓口が分散しがちで、韓国のように「外食輸出」に一元化された強力な国家戦略になりにくい側面があります。
* 「個」の力に依存した海外進出
日本の飲食企業の海外進出は、多くの場合「志の高い企業やオーナー個人のリスクと努力」に委ねられています。そのため、現地での壁にぶつかり、撤退を余儀なくされるケースも少なくありません。
* サプライチェーンの現地化の遅れ
日本の素晴らしい食材や調味料を海外に輸出する際、規制やコストのハードルが高く、現地の店舗が継続的に利益を出しにくい環境が残っています。
日本の食は「個の力」で世界に戦いを挑んでいる状態であり、システムとして勝とうとする韓国との差が、近年の出店スピードや規模の差となって現れているのが現実です。
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④ 日本の飲食人に伝えたいこと:今こそ「海外」へ目を向けよう
だからといって、諦める必要はまったくありません。むしろ、ここには「巨大なチャンス」が眠っています。
国の支援体制を待つことも大切ですが、何よりも現場で日々お客様に向き合っている日本の飲食事業者の皆さまには、「自分たちの商品・技術は、世界で戦えば何倍もの価値になる」という事実に気づいていただきたいのです。
日本の外食市場は、人口減少やコスト高騰により厳しい環境が続いています。しかし一歩海外へ出れば、日本の「美味しい料理」「きめ細やかな接客」「徹底された衛生管理」に対して、何倍もの価格(客単価)を払ってでも食べたいという客層が山ほど存在します。
韓国の事例が教えてくれる最大の学びは、「外食は国境を越える最強の輸出産業になり得る」という事実です。
最初から完璧なシステムを作る必要はありません。まずは現地の視察に行ってみる、海外で挑戦している先輩経営者の話を聞いてみる、スモールスタートでポップアップ出店を試してみる――そんな小さな一歩からで構いません。
世界は今、間違いなく「本物の日本の食体験」を求めています。国や業界の枠組みを超えて、志ある日本の飲食人がどんどん海外へ飛び出し、世界を驚かせる日が来ることを心から楽しみにしています。海外進出という選択肢を、ぜひあなたの事業の未来図に加えてみてください。
編集長コラム
2026.08.14
【海外外食レポ】世界中で「韓国料理」が爆発的に売れている本当の理由〜国が一丸となって仕掛ける“勝てる外食輸出ビジネス”の構造とは?〜

菅野 壮紀(かんの たけのり)
APPLILAB SINGAPORE CEO
飲食業界向けITソリューションを提供するAPPLILAB SINGAPOREのCEO。
シンガポールを拠点に、東南アジアを中心とした世界の飲食トレンド、Food Tech、店舗経営の最前線を定点観測している。
現地のリアルな事情に精通し、日本の飲食企業が海外の知見を取り入れるための架け橋として活動中。
https://applilab.sg/
























