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編集長コラム

ベトナム飲食の罠!雨季の予算とインボイスのリアル

PROFILE

菅野 壮紀

菅野 壮紀(かんの たけのり)
APPLILAB SINGAPORE CEO 飲食業界向けITソリューションを提供するAPPLILAB SINGAPOREのCEO。 シンガポールを拠点に、東南アジアを中心とした世界の飲食トレンド、Food Tech、店舗経営の最前線を定点観測している。 現地のリアルな事情に精通し、日本の飲食企業が海外の知見を取り入れるための架け橋として活動中。 https://applilab.sg/


日本の飲食市場が成熟し、次なる成長の舞台として東南アジア、なかでも「ベトナム」に熱い視線を注ぐ日本の外食経営者は後を絶ちません。
活気あふれる街並み、若年層の多さ、そして親日的な国柄。一見すると魅力だらけの市場に映りますが、
いざ現地で店舗を構えるとなると、日本とは全く異なる「南国特有の商慣習」と「厳格な法規制」の壁が立ちはだかります。

今回は、現地に飛び込まなければ見えてこない、ベトナム飲食経営の「リアルな現場とリスク」を、2つの視点からお届けします。


1. 「四季」ではなく「乾季と雨季」で予算を組む

日本には美しい四季があり、春の歓送迎会、夏のビール需要、冬の忘年会や鍋など、季節ごとのイベントに紐づいて売上の山谷が生まれます。

しかし、熱帯気候のベトナム(特に南部ホーチミンなど)にあるのは「乾季」と「雨季」の2つだけです。
実はこの気候のサイクルが、現地の飲食店の売上を大きく左右します。

5月~10月頃の雨季になると、バケツをひっくり返したような激しいスコールが毎日のように街を襲います。
道路は一瞬で冠水し、交通インフラは麻痺。
こうなると、ベトナムの人々は驚くほど外食をしなくなります。
夕方に激しい雨が降れば、その日のディナー客数は一気に激減するのが日常茶飯事です。

そのため、ベトナムでの出店計画や年間予算を組む際は、日本的な感覚を一度捨てなければなりません。
雨季は売上が落ちることを大前提とし、その分のビハインドを乾季(11月~4月)でどう巻き返すか、という「2期制」の予算管理が鉄則となります。

では、雨季の売上ダウンをただ指をくわえて見ているしかないのかというと、そうではありません。
ここで勝負を分けるのがフードデリバリーの有効活用です。

ベトナムでは、雨が降ると街中の移動が困難になるため、オフィスや自宅から一歩も出ずにデリバリーで食事を済ませる文化が完全に定着しています。

Grab(グラブ):
現地で圧倒的なシェアを誇る巨大プラットフォーム。
現地ローカル層へのアプローチには欠かせません。

Capichi(キャピチー):
在ベトナム外国人や中高所得層のベトナム人から絶大な支持を得る日系のデリバリーアプリ。
丁寧な配送品質と日本語対応が強みで、客単価の高い日系飲食店にとっては必須のライフラインです。

雨季は「来店客が減る季節」ではなく、「デリバリーの需要が爆発する季節」へとマインドを切り替える。
この割り切りと動線確保ができるかどうかが、ベトナムで生き残るための第一の関門です。


2. 厳格化する「レッドインボイス(電子インボイス)」の罠

売上(マーケティング)のコントロール以上に、日本の経営者を悩ませるのが「税務と法規制」、とりわけ「レッドインボイス(電子インボイス)」を巡る問題です。

ベトナムでは、企業の経費精算や法的な取引の証明として、税務署が管理する公式な仕入伝票(通称:レッドインボイス)の発行が義務付けられています。
近年、国を挙げてこの電子化・義務化が法制化され、規制は年々厳格化の一途をたどっています。

建前としての法律は厳しくなりましたが、悲しいかな、ベトナムの「実際の現場」のインフラや業者側の意識はまだ追いついていないのが実情です。
ここに日系飲食店をハメる大きな罠があります。

店舗が食材や資材を仕入れる際、卸業者に「レッドインボイスを発行してくれ」と頼むと、以下のようなトラブルが頻発しています。

「インボイスを出すなら、提示した見積もりとは別に、追加で5%~10%の別料金を上乗せする(料率を上げる)」

「インボイスが必要なら、うちではなく別のダミー業者から買ってくれと言われる」

このように、正規の発行を拒んだり、悪質な手数料を上乗せして請求してきたりする業者が今なお後を絶ちません。
仕入れ値を安く抑えようとローカルの安い業者を選んだ結果、インボイスが出ずに経費として落とせない、あるいは結局トータルで高くついた、という失敗談が溢れています。

こうしたグレーな環境が長く続いてきたため、現地の一部企業やローカル店舗の間には「どうせ政府の監視もガバガバだし、バレなきゃいいだろう」と、
インボイスなしの闇仕入れを続けているところがあるのも事実です。

しかし、日本の外食企業、特にベトナム国籍を持たない日本人の経営者は、絶対にこの「甘い誘惑」に乗ってはいけません。

ベトナム政府は外資企業に対する税務監査を非常に厳しく行っています。
万が一、不適切な会計や脱税まがいの取引が発覚した場合、科されるペナルティは莫大な罰金だけにとどまりません。
最悪の場合、ライセンスの剥奪や、経営者個人の国外退去(強制送還)、今後の再入国禁止といった、文字通り「一発退場」のリスクがリアルに存在します。


まとめ:現地のリアルを知り、正攻法で勝つ
ベトナム市場は確かに魅力的です。しかし、表面的な華やかさだけを見て進出すると、気候による売上の乱高下に動揺し、不透明な現地業者とのトラブルで足をすくわれることになります。

天候リスクを織り込んだデリバリー主導の予算戦略

インボイス対応を徹底した信頼できるサプライチェーン(仕入先)の構築

この2つを徹底し、現地ローカルの悪習に流されず「正攻法」を貫くこと。
それこそが、ベトナムというエネルギッシュな国で、日本の外食が持続可能な成功を収めるための唯一の道と言えるのではないでしょうか。

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