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【海外進出レポート】カンボジアで勝つ飲食店の「FL構造」とは?激安の家賃・人件費と、立ちはだかる「IT・流通」の壁

PROFILE

菅野 壮紀

菅野 壮紀(かんの たけのり)
APPLILAB SINGAPORE CEO 飲食業界向けITソリューションを提供するAPPLILAB SINGAPOREのCEO。 シンガポールを拠点に、東南アジアを中心とした世界の飲食トレンド、Food Tech、店舗経営の最前線を定点観測している。 現地のリアルな事情に精通し、日本の飲食企業が海外の知見を取り入れるための架け橋として活動中。 https://applilab.sg/


近年、日本の飲食企業の進出先としてにわかに注目を集める東南アジア。
なかでも若年層の人口比率が高く、ドル経済圏としての魅力も併せ持つカンボジア(プノンペンなど)は、次なる成長を狙う経営者にとって無視できないエリアとなっています。

しかし、日本で成功したビジネスモデルや「数式」をそのまま持ち込むと、高確率で足元をすくわれることになります。
なぜなら、カンボジアにおける飲食店の利益構造(FL構造)は、私たちが日本で叩き込まれてきた常識とはまったく異なるからです。

今回は、現地でのリアルなコスト感と、日本企業が直面しやすい「盲点」について、現地視点から徹底解説します。


##常識が崩壊する「超低空」の家賃と人件費

日本の飲食経営において、固定費の代表格であり、売上比率のコントロールに最も頭を悩ませるのが「家賃(R)」と「人件費(L)」です。
日本では「FL比率60%以下」「家賃比率10%以下」が健全な経営の目安とされますが、カンボジアのローカルエリアや、一歩路地に入った立地では、この前提が根底から覆ります。

まず驚かされるのが家賃の絶対額です。
日本では「坪単価x万円」という考え方が一般的ですが、カンボジアでは物件丸ごと、あるいは1フロアで「月xドル」という契約が主流です。
もちろん、一等地や高級ショッピングモール内はそれなりの金額になりますが、少し立地を外せば、なんと「月額3万円(約200ドル)」という破格の物件も現実に存在します。

さらに、経営を大きく下支えするのが人件費の安さです。
現在、カンボジアにおける一般的な飲食店スタッフの給与水準は、1人あたり月額4万円(約260~270ドル)程度。
日本のアルバイトスタッフの数日分の給与で、現地ではフルタイムのスタッフを1ヶ月雇用できる計算になります。

これだけを聞くと、「家賃も人件費もこれだけ安いなら、誰がやっても利益が出るイージーマーケットではないか」と思うかもしれません。
しかし、ビジネスはそう単純ではありません。この「低すぎる固定費」こそが、次の大きな罠を際立たせることになるのです。


##キャッシュレス大国・カンボジア。決済手数料「ゼロ」の衝撃

コスト面において、カンボジアには日本以上に進んでいるポジティブな要素もあります。それがキャッシュレス決済の普及度です。

カンボジアでは「KHQR」と呼ばれる、中央銀行が主導する共通QRコード決済が完全にインフラとして定着しています。
市場の屋台から高級レストランまで、あらゆる場所でスマートフォンを使った決済が行われていますが、特筆すべきは「店舗側の決済手数料が原則ゼロ(無料)」という点です。

日本では、クレジットカードやQR決済を導入すると、3%〜5%程度の手数料をカード会社に支払うのが当たり前であり、これが利益を圧迫する要因になっています。
この手数料が完全に「ゼロ」であることは、営業利益率を押し上げる強力な追い風となります。


##日本のシステムは高すぎる?立ちはだかる「IT投資」のミスマッチ

ここまでメリットを並べると、非常に魅力的な市場に見えます。
しかし、日本の飲食企業がいざ進出しようとしたとき、最初に突き当たるのが「日本のPOSシステムやITツールの高すぎる壁」です。

前述の通り、現地のスタッフは月4万円、家賃は数万円で収まる世界です。
そこに、日本で流通している高機能なPOSシステムやオーダー管理システム(OES)を、日本の「定価」のまま導入しようとするとどうなるでしょうか。

初期費用に数十万円、月額の保守・利用料に数万円。
日本国内であれば「人件費1人分の削減につながるなら安いもの」と判断される投資ですが、
カンボジアの物価水準に当てはめると、「POSシステム1台の月額利用料が、現地スタッフ1~2人分の月給と同じ」という、歪なコスト逆転現象が発生してしまいます。

これでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)による効率化の恩恵を受けるどころか、システム費用が経営の重荷になってしまいます。
今、現地マーケットが切実に求めているのは、日本の高機能すぎるシステムではなく、現地物価にアジャストした「機能を絞った圧倒的な廉価版システム」なのです。
ここを最適化できるかどうかが、進出企業の成否を分ける一つのポイントになります。


##「仕入れ(F)」の現地化が最大の生命線

もう一つ、日本の経営者が最も苦戦するのが「仕入れ(F)」のコントロールです。

家賃と人件費がどれだけ安くても、日本とまったく同じクオリティの食材を、すべて日本から直輸入していては意味がありません。
輸送コストや関税が上乗せされた日本の食材は、現地では超高級品です。これでは原価率(F)が跳ね上がり、せっかくの低固定費というメリットを完全に相殺してしまいます。

カンボジアで持続可能なプレミアム・カジュアル、あるいはデイリーユースの飲食店を成立させるためには、
「現地、または近隣国(タイやベトナムなど)からの流通経路(サプライチェーン)を自力で見つけること」が必須命題となります。

クオリティを担保しつつ、いかに現地で安く手に入る食材に置き換えられるか。
あるいは、信頼できる現地の卸業者と強固なパイプを築けるか。この「仕入れの現地化」に泥臭く取り組んだ企業だけが、
カンボジア市場の真の恩恵である「極めて高い営業利益率」を享受することができるのです。


##【まとめ】日本の常識を捨て、現地の「方程式」を組み立てる

カンボジアという市場は、日本の飲食経営の教科書が通用しないエキサイティングな場所です。

家賃や人件費は日本の数分の一、決済手数料はタダ。

しかし、日本のシステムや食材をそのまま持ち込むと、コストが爆発する。

このギャップを理解し、現地の物価水準に合わせた「身の丈に合うIT投資」を行い、現地の「流通経路」を開拓する。
日本の高いクオリティやホスピタリティという精神はそのままに、コストの構造だけを現地に最適化する「引き算の経営」ができるかどうかが、
これからの海外進出における最大の学びであり、勝機と言えるのではないでしょうか。

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