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インタビュー

【タイ発】アメリカからタイに渡り22年 多業態多店舗展開で成功 Mercato Co., Ltd. 増田 慎太郎

全世界を巻き込んだ新型コロナウイルスによる経済危機は、タイにおいても例外なく、全産業に深刻な影響をもたらしている。タイの主要産業である観光産業も、2020年3月現在、タイ政府がすべての外国人の入国を禁止する国境封鎖を陸路空路ともに実施したため、観光客がタイを訪れることが全面的に禁止となっており、観光産業全体が壊滅的な危機にある。

外食産業についても事態は深刻で、3月22日以降、すべての飲食店が店内営業を禁止され、持ち帰りかデリバリーのみの営業しか許されていない。コロナウイルスの感染拡大が始まって以来、ウイルス感染者がでた店舗が閉鎖に追い込まれたり、通常の営業を続けていても20-50%の売上ダウンを記録する店が多かった。それが今回の措置で外食産業全体が深刻な影響を受けるのは間違いない。日系飲食店でも、状況は変わることはない。

今回タイ政府が営業停止命令を出す前の状況を見ると、どの業態でも、売上を大きく減らしていた。しかし、日本人、タイ人、観光客などの客層、業態、出店エリアによってダメージの度合いに差が出ているのも確か。日本人同士の接待需要が大きかった店はダメージも大きいが、タイ人の固定客が多い店は比較的マイナスが少なかったり、郊外店のほうが落ち込みが少ないなど。今後の課題として、立地を分散させたり、そのための多店舗多業態展開でリスクを回避するのも一策かもしれない。

今回紹介する Mercato Co., Ltd.の増田 慎太郎さんは、アメリカ、ロスアンゼルスでの飲食店経営の経験を携えてタイにやってきた。最初は、道端の小さな「おにぎり屋」から始め、いまでは、居酒屋業態3店舗、海鮮居酒屋業態2店舗、とんかつ業態3店舗、焼き肉業態1店舗、牛丼業態1店舗の10店舗を展開する業容となった。いわゆる多店舗多業種展開だ。

※このインタビューはタイ政府が非常事態宣言を発令した3月26日以前に行いました。


「大枡」スクムビットソイ11店



ーまず、コロナウイルスの影響についてですが、どのような影響がありますか。
増田 慎太郎さん(以下、増田): どこもそうだと思いますが、お客さんが減って売上が大幅に落ちてますね。特に、トンローの「かき小屋」やスクムウィットソイ24の「ZAGIN」など日本人率の高い店は40%ダウン。タイ人率の高いスラウォンの「大枡」「かつ真」でも20%はダウンしてますね。

ーこのたび出店したスクムウィットソイ11に居酒屋業態の「大枡」を出店されましたね。
増田: 日本風の居酒屋って業態のブームはもう終わったと思うんですよ。だから、居酒屋業態はもう出さないと考えていたんです。でも、今回出店したここのホテルのオーナーからこの場所を紹介されたときに白人が多いエリアなので、白人向けの居酒屋という業態でやってみようと思いました。もともと、白人向けの飲食店をアメリカにいたときからやっていたんで自信がありました。

「牛野家」タニヤ店



ータイに来るまでは何をされてましたか。
増田: 最初は1987年に、和風スパゲティ屋のシェフとしてロスアンジェルスに呼ばれて行きました。そこで、飲食店のコンサルタントも同時にやってたんですが、そっちの関係でロスアンジェルスに行ってから2年後の1989年に、とんかつ屋のオープンを手がけたんです。しかし、そのお店が資金ショートしてしまって、結局自分で日本の実家から資金を借りてきて定食屋として「Teishokuya Of Tokyo (TOT)」をオープンすることにしました。そのお店はまだありますよ。
その後、やはりロスアンジェルスでジャパニーズイタリアンのお店もはじめました。もともと和風スパゲティをやっていた関係もあって醤油を使ったパスタやらきのこを使ったパスタなどを出してました。まだアメリカにはそういうお店がなかったのでそこそこ当たりました。そのあと居酒屋もやって3店舗までいきました。その会社は母親と弟に任せてやってます。


「かつ真」スラウォン店



ータイに来たキッカケはなんですか。
増田: 1998年にロスアンジェルスで旅行会社をやってた友達に誘われてタイに来ました。そのころのタイの活気はもの凄くて、アメリカとは比べものにならない何かを感じました。ここで商売やったら面白いだろうなあって気持ちが湧いたんです。まず、人の多さ。ロスアンジェルスなんて人が歩いてないんですよ。クルマでピンポイントでお店に行って帰っちゃうから。
でも、バンコクは山のように人が歩いて、モノ買って、メシ食って。こんなところで商売したら笑いが止まらないって思ったわけです。その時はできたばかりのバイヨークタワーに泊まってたんですが、エンポリアムができた頃で、次の年にはBTSが開通しますなんて、これからタイがバブルに向かおうとしてるまさにその時だったんですよ。で、面白かったから、友達だけ返してタイに残っちゃったんですよ。


「大枡」日本街店



ーその時にタイで飲食店を始めることになったんですか。
増田: その時行った飲み屋の社長の日本食店で、板前をやってる人を紹介してもらったんです。そして、その人が勤めていたバンコクの日本食店の社長を紹介してくれました。そのお店で働き始めてしばらくすると仕入れを任されるようになりました。当時、パソコンを使えるのはアメリカじゃ常識だったんですが、バンコクの日本人じゃまだ使える人が少なかったですからね。その後、パソコンで仕入れた食材をデータベース化して原価率を計算したりできるようにしました。
さらに、それまでバンコクの日系の魚屋に丸投げしていた魚の仕入れを築地から直接仕入れることができるように、日本からタイに持ってくるまでの航空便やら乙仲の手配まで自分でやったんです。いまはどこでもやってることですけど、タイの飲食店ではじめにやったんです。その結果、朝築地で仕入れた魚を夕方にバンコクで出せるようになったんです。日本国内の地方の寿司屋なんかより早かったんですよ。


ーその後、独立して自分でお店を始めたんですね。
増田: ちょうど津波があった2004年に、タニヤの小さなコンテナハウスみたいなところで「おにぎり屋」を始めました。次に2006年に今度はもう少し大きいところを借りて牛丼屋の「牛野家」を始めたんです。その後、今度は2008年にタニヤではなくスリウォンにショップハウスを借りてとんかつ屋の「かつ慎」を始めました。さらに、2009年には「かつ真」の隣に居酒屋業態の「大枡」をオープンしました。また、同じ年にスクムウィットソイ26の「日本街」に「牛野家」の2号店をオープンしたんですが、いまはその場所は「大枡」の2号店になってます。

ー一時期、郊外のショッピングモールにも出店しましたね。
増田: シーナカリンのタンヤパークですね。あそこは、タニヤに出店していたときのオーナーのタニヤプラザの関係で出店しました。いままでとは全く違ってタイ人ターゲットのロケーションでしたが、失敗でした。黒歴史ですね。

「勝浦水産・かき小屋」



ーそして、スクムウィットソイ24の「ZAGIN」ですか。
増田: ソイ24は白人が多い場所だったので、カリフォルニア料理を提供するお店として「ZAGIN」を2013年にオープンしました。メニューも白人向けのメニューでした。オープン当初はお客さんの割合は白人80%。ただ、タイ人のお客さんが全然来なかったですね。カリフォルニア料理というメニューの内容が当時のタイ人にとっては早すぎたんだと思います。カリフォルニアロールとサーモン刺身しか知らない当時のタイ人にとっては、カリフォルニアジャパニーズなんてメニューは、何だこれって感じだったんでしょう。タイ人も思うように集客できなくて、日本人もイマイチだったので、思い切ってとんかつ屋の「かつ真」に業態を変えました。

ー海鮮業態は2015年オープンのトンローの「かき小屋」が最初ですね。
増田: そうです。元はといえば、日本で能登のかき小屋に行ってこれは面白いなと思って考えたんです。それで、お店のテーマを勝浦にしようと考えて「勝浦水産・かき小屋」にしました。表の看板のイメージは日本で流行ってた「磯丸水産」のパクリですけどね。

「海野家」



ー今後の出店はどのような展開を考えてますか。
増田: シーロムエリアでタイ料理店を考えてます。これは、日本でのタイ人雇用との関係があります。2016年に東京の新富町にタイ料理の「Pink Elephant」、2017年にタイ屋台料理の「サイアム・ガイズ・トーキョー」をオープンしましたが、これらのお店で働くタイ人をタイで採用して日本へ出張者として派遣したいと考えているからです。そのほうが、日本でタイ人を雇うのと比べて、ずっと優れた人材を確保することができるからです。

ータイと日本以外での展開の予定はありますか。
増田: 次の展開は、アメリカを考えてます。ロスアンジェルスかテキサスですね。テキサスが意外だと思うかもしれませんが、アメリカのビジネスを知っていれば何も不思議な事じゃないんです。トヨタの関連会社が進出するなど、テキサスはいま日本人がどんどん増えてます。でも、日本食レストランなんてありません。バブルの一歩手前じゃないでしょうか。あと、カリフォルニア州と比べてバカ高い税金を払う必要もないんです。税金が安いからトヨタもテキサスに行っちゃったんですよね。

ー本日はありがとうございました。

(取材=まえだ ひろゆき)

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