12月15日にJETROバンコク事務所が発表した、2020年のタイにおけるタイ国内の日本食レストランの店舗数は対前年比12.6%増え、4,094店となり、初めて4,000店の大台に届いた。しかしながら、COVID-19(新型コロナウイルス)の影響で閉業、退店も増加。特に、3月22日から5月17日まで約2ヶ月の間タイ政府が商業施設や飲食店を閉鎖したことの影響で閉業、退店が増加。調査開始以来最大の減少数を記録した。
この調査の中で特に注目すべきは、日本食レストランの店舗数増加に大きく寄与しているのが、地方の勢いだと思われる。店舗数は対前年比で12.6%増えたと書いたが、バンコクと地方を比べると、バンコクの伸びが5.6%であるのに対して、地方の伸びは21.0%に達する。言うまでもないことだが、地方でこれだけ伸びたということは、「タイ人によるタイ人のための日本食レストラン」が増えたことと同義だと思う。
観光客が皆無となり、タイ国内に滞在していた観光客以外の外国人も大きく減っていったことで、外国人に依存していたバンコク都心の商業施設などが集客を減らす一方、COVID-19の感染拡大が収束する中、地方の消費が力強く回復してきたことが日本食レストランの店舗数にも影響している。
今回インタビューをお願いしたのは、今年7年目を迎える「北海道レストラン 原始焼き スクムヴィット26」のオーナーの小澤将生さん。小澤さんは、2018年からタイの「原始焼き」グループ3店舗の経営を任され、2019年からは「原始焼き」2店舗を買い取り、自らオーナーとしてタイの日本食最前線に立つ。
小澤さんのお店は、COVID-19によるロックダウンが明け、通常営業が再開された後、一時、タイ人客が70%まで増え、現在ではその数が50%にまで変化してきたという。そして現在、それまでの居酒屋業態一辺倒の業容を改め、ランチ重視のブランド構築、タイ人向けデリバリー業態のFC導入など、大掛かりなブランディング戦略の再構築を展開している。このように日々変化する状況の中、ロックダウンの最中から、再開後正常化する中で、小澤さんが模索してきたことについてお話をうかがった。
ーまず、飲食業界に関わるキッカケについてお聞かせ下さい。
小澤 将生さん(以下、小澤): まず高校を出て栃木県足利市の飲食店でアルバイトをしていました。そのままアルバイト先に就職して、3年働きました。その後、東京で働きたかったんですが、そのお店の東京出店がダメになったので、2004年にそこを辞めて1年間のワークホリデーでオーストラリアに行きました。
日本に戻ってからは、2005年から2007年6月まで、グローバルダイニングで働きました。グループの中でも高級店に位置する白金の「ステラート」というお店です。グローバルダイニングにはもう少しいようと思ったんですが、知り合いが新会社を立ち上げると言うので辞めてそこの立ち上げに参加しました。それがオイスターバー&レストランの「オストレア」というお店です。多い時で全部で9店舗あったんですが、すべての店舗を任される立場にありました。最終的には2017年に社長になれという話がありましたが、自分の会社を立ち上げ独立したかったので、その話を断って会社を辞めることにしました。
ー小澤さんがタイでお店を始める経緯はなんですか。
小澤: 社長就任のオファーを断って辞めた時に、その会社に以前いた先輩から紹介されたのが、タイで「原始焼き」を展開する日本の会社「株式会社 ルンゴカーニバル」の相馬社長だったんです。その時僕は34歳でした。その後、何度かお会いするうちに相馬さんといっしょに働いてみたいという気持ちが生まれました。相馬さんが東京でお店をやるという話があったのでお話を聞いていたんですが、その話が流れた時に、タイにもお店あるんですよって話が出たんです。
「原始焼き」グループ全店舗の責任者として、タイに来ましたが、最初は、タイで自分がオーナーとして出店するなんて思っていなかったんです。まず、2年限定で、独立の準備をするために海外の経験を積むためにと思いタイに来たんです。そのあと、日本で自分の店を持ち、海外にも出店したいと思っていました。日本での飲食店経営の経験はありましたが、海外で飲食店をやるということのイメージができなかったので。
ータイで自分のお店を持つことになったのはどうしてですか。
小澤: まず、相馬社長がやってる日本での展開は全部FC方式なんです。相馬社長が気の許した人間に売却して、店長じゃなくてオーナーを作っていくというスタンスです。タイでもシーロム店はFCなんですが、僕がフランチャイザー側の担当者として立ち上げを手伝ってお店が「跳ねた」んですよ。その時に、相馬社長がタイでもそれをやろうとしていた時に「小澤さんがやってくれれば助かるんだけどなぁ」と声をかけてくれて、「3店舗買いますか」という話になったんです。結果的には、2店舗になりましたが、買わしてもらうことになりました。
ータイの飲食店に関する印象をお聞かせ下さい。
小澤: タイにもミシュランで星を獲得してる「GAGAN」のような日本を超えたお店があります。あるいは東京にあっても十分通用するようなお店も多くあります。ただ、僕たちがやってるような居酒屋レベルになると、盛り付け、サービスなどこの客単価では東京じゃ通用しないようなお店が多いのも事実ですね。僕たちのお店も、まだまだ同じ状況ですが。
ー新型コロナによるロックダウンの時はどうしてましたか。
小澤: まず3月22日から店内飲食がダメになって、僕と日本人スタッフだけが出勤してもらうことにしました。日本人スタッフだけでできることを考えて、お店の外でたこ焼きを焼いてました。あと食材の在庫が30万バーツ分くらいあったので、それを使ってデリバリーメニューを考えてInstagramやFacebookで注文を受けていました。そして、タイ人スタッフには今日から給料払えないというわけにはいかないので、残った食材を売れた分だけ山分けしようという形で協力してもらいました。僕は一切お金は受け取らないで、毎日1万バーツくらい売れたので、これをスタッフでシェアしてもらいました。
ーお弁当のデリバリーも始めてましたね。
小澤: 残った食材を売るというのは4月いっぱいやりましたが、そのあと、お弁当のデリバリーを始めました。店内営業は再開できたんですが、お酒を出せなかったんでお弁当営業に力を入れてました。この時、お弁当が3万バーツ/日、店内が1万バーツ/日くらい売れました。店内営業の方はタイ人の方だけでしたね。お弁当を買って店内でお茶を飲むとかです。日本人は全然来なかったです。
この時、お店の外でたこ焼きを実際に焼いて売っていたのですが、買いに来るのは知り合いだけでした。でも、これはお客さんにお弁当のデリバリーをやってるってことを見せるための看板のようなものだったんです。店頭で何かをやってるってことで興味を持ってお客さんが見に来てくれればと思ってやってました。
ーロックダウン中はスタッフにはどういう対応をしてましたか。
小澤: 5月にスクムヴィット31のお店を手放したのですが、その前だったんで、2店舗合わせて26人のスタッフがいました。日本人のスタッフ以外は4月いっぱい、とりあえず一旦休みということにしました。大体のスタッフが田舎に帰りました。ミャンマー人は国に帰れないのでバンコクに残ってました。
4月20日にスタッフを集めて、通訳を入れてミーティングしました。そのときに、この状態だと2店舗の経営を維持するのは難しいからソイ26の店舗を残して売却すると伝えました。5月からデリバリーを中心に再開するけど残りたい人間は残ってくれと説明したんです。その時点で26人が全員残るってことも想定して店舗営業再開後のプランを考えてました。朝から夜までモーニングもやる、ランチもやる、外で屋台もやる、深夜営業もやるなどでフル営業すれば2店舗分のスタッフ26人で回せるんじゃないかと。営業時間を倍にすれば売上げが倍になるとは考えられないですけど、スタッフが働く場所は確保できるんじゃないかという発想です。でも最終的には、半分以上のスタッフは辞めてもらうことになって、残り10人で再スタートをすることになりました。
ー1店舗だけでの再スタート後はどうでしたか。
小澤: 日本人の主婦で人気の有名ブロガーの方に取り上げてもらったりして好調でした。利用してもらったのはほとんど日本人でしたけどね。9割近くがデリバリーでしたが、最初の頃は全部僕が自分でバイクに乗ってやってました。それでも足りないところはGrabのデリバリー機能だけを使ったりしてました。手数料は取られますが、Grab FoodやLINE MANに登録すると1500バーツ売れても500バーツ取られちゃいますから、こっちの方が全然安いんです。あと、バイタクを一人雇ってて1日働いてもらったら500バーツ払うようにしてました。
ーアルコール提供が再開になったあとの状況はどうでしたか。
小澤: 最初はかなり苦労しました。まず、残ったスタッフのうち何人か辞めてしまって厨房スタッフが2人になってしまったんです。理由はやはり給料が下がったからなんですが。ちなみにそのスタッフは残ったスタッフの給料が以前より高くなったのを聞いて戻ってきたいって言ってきましたけどね。
結局、日本人料理長とタイ人厨房スタッフ2人に加えてホールから厨房に1人入れるようにした体制で回すようにしました。いまはそのホール担当だったスタッフも厨房に定着しました。その体制で、店内営業とデリバリーの両方をこなすようにしてます。
ー再開後の売上げの回復はどうでしたか。
小澤: まず賃料が4-5月は無料にしてもらってたんですが、6月から以前の半額になったんです。でも売上げはそれまでの半分以下でした。でもこれは想定していた範囲です。家賃が下がったことも考慮して、損益分岐はロックダウン前の50%程度と想定してましたから。それを見据えて食材なども仕入れてましたから。まあまあという売上げでしたね。そして7-8月はロックダウン前の60%くらいですからうまく回復したとおもいます。そして、9月、10月は80%、11月は90%まで回復してきました。毎日の売上は去年より良くなってきてます。
ーロックダウン以降なにか新しい取り組みをしましたか。
小澤: 9月から「北海丼(Hokkaido Don)」をはじめました。これは親会社である日本の「ルンゴカーニバル」が日本国内でやっている「北海道レストラン」というお店のランチメニューです。1つのお店の中でラーメン屋もやって丼ぶり食堂もやって、いろんな業態が合わさって、1つのお店で20業態の専門店のメニューが食べられるというコンセプトです。その考えをタイでも広めようと思い、北海丼をスタートしました。日本は20店舗ですが、タイではこの「北海丼」を含め、3業態の専門店のメニューを提供しようとするコンセプトです。3業態とは、既存の「原始焼き」メニューとこの「北海丼」そしてもう1つ「グリル丼」なんです。
「グリル丼」は現在、今流行りのゴーストキッチンのように、店舗を持たないデリバリー専門のお店として「原始焼き」のタイ側パートナーがやっている業態なんですが、タイ人のまだ牛肉を食べない層に対して牛肉を売るというコンセプトのお店です。このお店のフランチャイズをやってくれませんかとオファーがあったので、やることにしました。ここのフランチャイズをやるメリットは、「グリル丼」自体がFacebookやLINEを通じてタイ人にアプローチしてくれてるので、そのタイ人が「原始焼き」まで足を運んでくれるというメリットがあります。「グリル丼」はデリバリーからスタートして、11月から店内でも提供しています。
表にも看板を3つ出してますが、「北海丼食堂」「グリル丼」そして「原始焼き」の3業態が一つの店舗に入ってるイメージです。そして次の展開ももう考えてます。それは生牡蠣のデリバリーです。もうキャラクターも考えてて、「ホイホイ北海道 by原始焼き26」(ホイとはタイ語で貝の意味です)を立ち上げる予定です。
ーロックダウン後にお店を再開してからの客層の違いはありますか。
小澤: 日本人が減りました。もともと、日本人:タイ人:香港人=55:25:20の割合だったんです。香港人が多いのは香港の旅行雑誌に掲載されたからなんですが、もちろん今は1人も来ません。再開直後から9月までは、30:70:0で、タイ人のほうが多かったんです。これが11月は50:50:0になって、日本人がやや盛り返してはいます。たぶん、日本人の駐在員などがタイに戻ってきたことが原因じゃないかと思います。
ー来年以降のイメージはありますか。
小澤: まず目標としては毎月300万バーツの売上げを確保することです。それだけあれば、ちょっとやそっとじゃ倒れないだろうし。それだけあれば、また何かあっても、スタッフの雇用を守ることができるだろうと思ってます。300万バーツのうち20%はデリバリーで売りたいと思ってます。オフィス街などで持ち帰り専用で販売することも考えられますが、そこに人を割くことを考えるより、今のお店を活用することをまず考えようと思います。
マーケティングに関しては、一時は日本人を切り捨てる勢いで考えていましたが、理想は半々と思ってますので、考え直しました。やはり、日本人が行く店だからきてくれるタイ人もいるわけですから。本来なら「てっぺん」「しゃかりき432″」のように思いっきりタイ人向けに振り切ってもいいと思うんですが、リスクを考えれば、正直どのパイも欲しいので、振り切らずに行こうと考えてます。
ただ、SNSを使ったマーケティングはすべてタイ人向けに絞り込もうと考えてます。日本人向けには、僕と料理長の2人が毎日お店に立って、日本の味を守る事で、来店いただけるように頑張ります。
ー本日はありがとうございました。
(取材=まえだ ひろゆき)
店舗データ
店名 | Hokkaido Restaurant Genshiyaki Sukhunvit26 北海道レストラン原始焼き スクンビット 26 |
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住所 | 83 , Soi 26 Sukhumvit Road,Khlong Tan タイ王国クローントゥーイ区 10110 |
電話 | 080 783 9915 |
営業時間 | 11:00〜14:00、17:00〜22:00 |
関連リンク | Hokkaido Restaurant Genshiyaki Sukhunvit26 北海道レストラン原始焼き スクンビット 26 |
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