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インタビュー

【タイ発】 「和食さと」を救った新業態の快進撃。 Nippon Tei Sato Co., Ltd. General Manager 鈴木 孝一郎

タイのバンコクはいま、COVID-19(新型コロナウイルス)の第二波が収束に向かいつつある。年初から始まった第二波とそれに伴う飲食店等への営業規制(営業時間の短縮、アルコール提供禁止)も2月22日に解除され正常化しているように見える。しかし、いまだに感染拡大を恐れる空気が強く、外食産業の多くはCOVID-19以前の売上に遠く及んでいない。

一方、このような状況でありながらも低価格をウリにする日本食チェーン「SATO don」は、2021年の出店目標を8店舗に掲げ、店舗数を倍増しようという勢いの日本食チェーン。「SATO don」は日本の大手ファミリーレストランチェーンの「和食さと」など約300店舗を展開する「SRSホールディングス株式会社」がタイに設立した合弁会社「Nippon Tei Sato Co., Ltd.」が展開する低価格帯のブランド。2018年「メガバンナー」に1号店を出店して以来、ショッピングモールなどのフードコートを中心に現在までに9店舗の出店実績がある。

COVID-19による危機に陥った昨年でも新規出店を3店舗増加させ、2021年に入ってからは、これまでバンコク近郊を中心に出店していた戦略を転換して、日本人も多いバンコク中心部のショッピングモール「エンポリアム」「エムクオティエ」に相次いで出店を決断した。

「Nippon Tei Sato Co., Ltd.」は、2014年にタイで老舗高級日本食レストランを6店舗展開する「日本亭」と、グループ全体で300社以上を擁するタイの4大財閥の一つ「サハグループ」および、日本の「SRSホールディングス株式会社」が合弁して設立したタイ法人で、「SATO don」以外にタイ国内で「和食さと」を展開する。出資比率は日本亭グループ 61%、「サハグル―プ」20%、「SRSホールディングス株式会社」19%となっている。

ちなみに「サハグループ」は日本企業との合弁を積極的に進めており、主な合弁相手としてはライオン、ワコール、イトキン、セコム、グンゼ、早稲田大学、文化服装学院、ツルハホールディングス、住友商事、西濃運輸、東急電鉄などがある。

今回インタビューをお願いしたのは、「Nippon Tei Sato Co., Ltd.」のGeneral Managerの鈴木孝一郎さん。鈴木さんは2003年に日本亭に入社、新規店舗の立ち上げなどを経験したあと、2014年の新会社設立に参画し、現在タイの「和食さと」グループ全体を統括する。「和食さと」の危機と再起を懸けた「SATO don」の成功と快進撃についてお話をうかがった。


Nippon Tei Sato Co., Ltd.設立記者会見(左から日本亭 キッティ氏、サハグループ ブンヤシット氏、SRSホールディング 重里氏、Nippon Tei Sato スンタリー氏)



―「和食さと」がタイに進出した経緯についてお聞かせください。
鈴木 孝一郎 (以下、鈴木): もともとは日本亭グループと日本で「和食さと」を展開するグループ(SRSホールディングス株式会社)が「サハグループ」との合弁会社を設立して、タイでファミリーレストランを展開するということで、2014年に「Nippon Tei Sato Co., Ltd.」を設立しました。なぜサハグループを巻き込んだ合弁形態になったかというと、サハグループの総帥であるブンヤシット会長が日本亭にお客さんと食事に来たときに僕が直訴したのがキッカケだったんです。
そのとき会長にタイで「和食さと」をやりたいんだけど、年商300億円の日本側と比べるとタイ側が10億円程度なので会社の規模が小さすぎてバランスが悪いと説明しました。もともとサハグループはいまは撤退しましたが、吉野家や不二家、銀座ライオンなどの飲食事業の経験もあり、サハグループ自体が中間層以下に向けた消費財を扱ってきたという流れから、飲食に関しても高級じゃないものを探してたんです。あと、会長自身も若いころ大阪で修行をしていたという経験があり、「和食さと」の前身のお店を知っていたんです。そして「さと」ならぜひやりたいという話になったんです。その後話しは順調に進み、サハグループの中で会長直轄のプロジェクトとして「和食さと」がスタートしました。


SATO don エンポリアム店



―「和食さと」プロジェクトはどのように展開されたのですか。
鈴木: 店舗展開としては、2014年の10月に1号店をシラチャ(バンコク隣県のチョンブリ県)にあるサハグループが立ち上げたショッピングモール「Jパーク」内にオープンしました。年が明けて2015年7月にアマタナコン工業団地に2号店、同年8月にシラチャのイオンモールに3号店をオープンしたんですが見事に失敗しました。特に2号店が鳴かず飛ばずで、1年も経たずに閉店しました。それで、4号店はもう出せないよねという状況に追い込まれてしまいました。
この教訓をもとに日本の「和食さと」がそもそも郊外型のファミリーレストランであったこともあり、同じようなことをタイでもやろうとしました。日本でもそうだったんですが、「和食さと」という業態は一般大衆向けの料理屋であって、高級店ではない。つまり、タイの一般の人が食べられる価格帯の食事を提供しなければ「和食さと」はこの国で広がらないだろうと思うようになり、「SATO don」を考えました。
つまりバンコク中心部への出店ではなく郊外への出店です。しかし、これが正直言ってヒットしませんでした。「和食さと=washoku SATO」と言っても、タイ人がWashokuという言葉の意味をわかんなかったわけですから。そこで、もともと計画にはなかったんですが、低価格帯の新業態を作ることにしました。


看板メニューのカツ丼



―新業態「SATO don」について教えてください。
鈴木: 最初は2018年に1号店をメガバンナーでオープンしました。いま全部で9店舗になりました。店舗展開についてはどこに出したらいいかがわからなかったので、郊外型のショッピングモールに出店したり、オフィス街のフードコートに出店するなどしてきましたが、最近は、こんな立地で出すべきだと言うのが固まりつつあります。つまり、バンコクの少し郊外、バンコクからちょっとだけずれたあたりです。スーパーマーケットの中への出店も意外にいい結果が出ています。
いま、少し回復してきてはいますが、バンコク中心部に出店した店舗はオフィス街だとテレワークの影響で大きく落ち込んだ時期もありました。また、ショッピングモールの中には中国人観光客の割合が高いところがあって、ここは以前と比べて30%くらい落ち込んだままでです。
客単価は店によって若干差が出ますが、100-130バーツ(約350-450円)です。エリアによる差はあまりないですね。
新しい試みとして、今年になって初めて出店したスワンナプーム空港の近くにあるラッカバンのロビンソン(ショッピングモール)では、50平米の客席、全部で20席を自前で構えて自分たちでサービスを提供するというかたちをはじめました。日本でいうと愛知県のスガキヤのようなイメージでしょうか。フードコートでもなく、カフェの延長にある和食屋という感じです。オープンして1か月経ったとこですが、非常に好調で想定していた売上の130%を達成してます。


SATO don アマリンプラザ店



―「SATO don」がフードコートを中心に出店してきた理由はなんですか。
鈴木: 初期費用が低く抑えられますので、失敗したときに痛くないってことです。「和食さと」の2号店と3号店が失敗したときは大出血でした。「SATO don」も閉めた店はありますがそんなに痛くはなかったです。今回(3月1日)オープンしたエムクオティエ店も前日の夜10時から始めて3時間くらいで作りましたからね。さきほど話したラッカバンのロビンソン(ショッピングモール)なんかでも、3日間で作っちゃいました。カウンター設置、看板、水回りあとはテーブルとイスを持ってくるだけでしたから。出店に関わる費用も一桁違います。
一方で、絶対的な粗利も少ない業態なので、10店舗程度じゃ全然足りないですね。


―今後の目標はどのようにお考えですか。
鈴木: まず今年の目標は年内に必達で8店舗出すことですが、もうすでに4店舗終わってます。そして、このあとの出店も決まり始めてますので、目標は達成できると思ってます。COVID-19の状況にもよりますが、将来的には10年以内に100-200店舗の規模が視野に入ってきてます。そして、「SATO don」業態に関してはフランチャイズ展開も視野に入れてます。そういった意味で一部の商品はOEM生産に切り替えてます。
さらにカンボジア、ミャンマー、ラオスの展開も考えてはいますが、その前にタイ国内のコンケンなどの地方を強化しろという声もあります。
そして、できれば「和食さと」をもう一店舗出したいですね。トンブリエリア(バンコク西側)も検討してますが、どちらかというと東側のスワンナプーム空港からシラチャにかけてのエリアを固めていこうと考えてます。
今は普通のしゃぶしゃぶをウリにしたファミリーレストランですが、ダイニングイノベーションの西山さんがやっているような「しゃぶしゃぶれたす」のようなオシャレ系のカッコいいしゃぶしゃぶ屋さんをやってみたいです。すでに「KigKong」が始めた香港風の「Mongkok」のようなしゃぶしゃぶ業態もありますが、単なるファミリーレストランではなく少し専門店に振ったしゃぶしゃぶ業態を開発していきたいですね。


―本日はありがとうございました。

(取材=まえだ ひろゆき)

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