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インタビュー

【タイ発】株式会社テイクユー代表取締役 大澤武 〜麺屋武一が直営戦略からFC戦略にシフト 世界に鶏白湯を広げるサポータに徹する〜


麺屋武一

「麺屋武一」 バンコク店



2020年の東京オリンピック/パラリンピックを来年に控え、今までにも増して盛り上がりを見せている日本のインバウンド市場だが、飲食業界も例外ではない。特に、都市部、観光地では訪日外国人をターゲットにしたさまざまな対策を各社工夫をこらして訪日客の取り込みに積極的に取り組み中。

現在の国別訪日客数を見ると、韓国、中国、台湾、香港といった東アジア圏が圧倒的に多いが、これらの国のあとに控える、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピンなどの東南アジア諸国の伸び具合も見逃せない。また、東南アジアからの訪日客の伸びとともにムスリム訪日客数も堅調に伸びつ続け、2020年には140万人の規模まで拡大すると見込まれる。

ムスリム訪日客にとってネックとなるのは食の問題。宗教上豚とアルコールが禁止されているからだ。訪日外国人にとって一番人気のメニューは寿司でも天ぷらでもなくラーメン。しかし、チャーシューや豚骨スープなどムスリムにとっては口にできない食材が含まれるラーメンは越えるに越えられない大きなハードルだった。

2012年にスタートした鶏白湯ラーメン「麺屋 武一」。インバウンド市場というキーワードも一般的じゃなかった当時、ムスリムフレンドリーなラーメン店を始めたことは先見の明があったと言わざるを得ない。さらに、2016年にはシンガポール、バンコクと海外出店を果たし、その後、東南アジア諸国、中国大陸、ヨーロッパへと海外展開を加速させていった。

麺屋武一

看板メニュー「濃厚醤油ラーメン」



今回取材にご協力頂いたのは株式会社テイクユー代表取締役の大澤武さん(51歳)。2012年の「麺屋 武一」の一号店オープンから始まり、直営店25店舗、FC加盟店76店舗、うち海外11店舗の一大ラーメンチェーンに発展した現在に至るまで、同社を率いてきた。大澤さんは鶏白湯ラーメンのパイオニアであると同時に今も拡大を続ける鶏白湯王国の原動力だ。

まず、2016年に海外展開を始めたきっかけは何だったのだろうかを聞かせてもらいかった。なぜ東南アジアと中国に重点的に出店しているのか。タイに進出したのはどういう経緯があったのか。
「2013年くらいからバンコクを含めた中国、東南アジア、アメリカを見て回ってました。スープが鶏白湯なので世界のどこでも勝負できると思ってましたから。
バンコクは前職(電子機器メーカー)のときに東南アジアを担当していたので、バンコクにはよく来てました。そんな関係でバンコクは好きだったんです。海外進出支援コンサルタントの会社からも誘われまして、アテンドもしてもらってました。

麺屋武一

「麺屋武一」 バンコク店(店内)



では、具体的な海外展開の流れについてはどうだったのだろうか。続いて海外一号店のシンガポール出店から始まる出店攻勢について聞いてみた。
「2015年の末くらい暮にシンガポールの日系商社からショッピングモールができるから入らないかと誘われて、その時はまだ海外やったことがないので無理ですとお断りしたんですが、先方の商社の方がFCやるから出さないかという話になりまして。バンコクも同時進行だったんですが、やることにしました。
2016年は、1月にシンガポール、3月にタイ、7月にホーチミン(ベトナム)とプノンペン(カンボジア)、11月にジャカルタ(インドネシア)にテスト店舗を2週間、そして、同じ11月にマニラ(フィリピン)、12月に上海(中国)と出店しました。いま思っても馬鹿ですよね。取り憑かれていたような感じです。」
 

当時バンコクでは、2008年頃に始まったラーメンブームが、2010年のラーメンチャンピオンズオープンでピークを迎え、その後、淘汰が始まり2015年には、ラーメンチャンピオンズも閉鎖され多くのラーメン店が消えていった頃。その状況に不安はなかったのだろうか。
「その頃はけっこうイケイケだったので、出せばイケると思ってました。ラーメン店が多いという印象はありましたが、「ばんからラーメン」の勢いを見ていましたし。鶏白湯は「七星」くらいしかなかったのと、現在のKビレッジの出店もほぼ決まってたし。この物件に出店してた「かつキング」の売上のエビデンスも見ていたので、出店を決めました。」

麺屋武一

「麺屋武一」 バンコク店(店内)



これまでの海外展開で苦労したこと、海外だからこその失敗などはどんな事があったのだろうか。これだけ急速な海外展開を考えれば、数々の苦い経験があると思うのだが。
「いろいろありました。海外第一号となるシンガポール店をオープンした時に、タイから輸入した食材がなかなか届かない。食品検査に時間がかかってただけの話なんですが、海外をなめていたんでしょうか。オープン直前まで食材が届かなくて焦りました。それ以外は、パートナー側の一社が日本のラーメン店経営の実績があったこと、優秀な日本人店長がいたおかげで、ほとんど問題なく運営できています。
それに続くバンコク店では、日本から店長を呼び常駐させて、オープンのときはいまよりずっと多くのお客さまが来られていたので、スタッフが足りない状況で、常に日本から二人くらいのスタッフを応援に来ていました。そのかわり、売り上げはすごく良かったんですが、日本からの応援など人にかけるお金がすごくかかってしまいました。」

麺屋武一

新製品を試食する大澤さん



日頃から、現地スタッフ日本人スタッフともに離職の多さ、採用の難しさ、あるいは、各種サプライヤーのトラブルを飲食店経営者の悩みのタネとして多く耳にしているが、「麺屋武一」にとっては致命的な問題ではなかったようだ。
「2016年7月にオープンしたプノンペンとホーチミンは、現地の日本人パートナーがやっているお店との複合店舗だったので、大きな問題はありませんでした。同年11月にオープンしたクアラルンプールも既存店舗内に併設する複合店舗の形式でしたので、オペレーションもそのままやってもらいました。
マニラに関しては、結局3ヶ月で撤退してしまいました。 場所はマニラ郊外のマラテというところに出店しましたが、飲み屋街の治安があまり良くないところでした。モールの中ならまだ良かったんですけどね。月に二回くらい、準備も含めて十回くらい出張しましたが、結局売却しました。このときは日本と違って立地が大切なんだと痛感しました。
上海は12月に拉麺競技館というところに出店し、直営を1年経験した後、施設側がFCとして継続してくれました。」

麺屋武一

ダイレクターミーティング



これまでのところ、直営店を出店して3ヶ月で撤退したマニラを除き、「麺屋武一」海外展開の重要な成功要因として、パートナーに恵まれた、あるいは入念なパートナー選びが功を奏したと言えるかもしれない。上海をFC化しバンコク以外はすべてFC店となったいま今後の展開をどう考えているのだろうか。
「いま、直営戦略からFC戦略に切り替えてます。直営をやるのであれば、一つの国で三店舗くらいやる。それぞれの国に日本人の駐在がいる状態。そうでなければコストが合わないと思います。一つの国に深掘りしようとするとその国にお金も人も突っ込まなきゃいけないじゃないですか。うちの会社の創業時からの理念が『日本中、世界中に鶏白湯ラーメンを広げましょう』ですから、一つの国にどっぷり浸かるより、それぞれの国ですでに展開している日本人や現地の人達と組んでやったほうがより広げられるんじゃないかということなんです。だから世界中に出せるような物流も含めたサポータとしての役割を見出していきたいと考えてます。」

麺屋武一

左から沼田さん(Managing Director)、アンさん(Director)、大澤さん



2018年にドイツのデュッセルドルフにアジアエリア以外に初出店。人材、食材、物流すべての点において全くの別世界ではないかと思うが、どういう戦略があるのだろうか。また、まだ見えぬ今後の戦略として何を用意しているのか。興味は尽きない。
「去年の9月にデュッセルドルフに出店しましたが、いまのヨーロッパに対しては面白みしか感じてません。現在、オランダにもFC店がありますが、ドイツ、オランダを中心にヨーロッパ展開を考えていこうと思っています。FC以外にもラーメンのプロデュースの会社を作ろうと考えてます。今度フランスに提携工場もできるので鶏白湯にかぎらないラーメンのプロデュース、進出支援をやっていきたいと思っています。
これ以外にも、アジアのムスリム大国も考えています。トルコのイスタンブールとジャカルタには興味があります。イスタンブールは1400万人の人口を抱えながら親日国でもあります。やはり、「麺屋武一」は鶏白湯ラーメンでは最大手なので、その責任としても進出すべきだと考えてます。中東に関しては、ハラルや飲酒に対する厳格さがあるので、あまり考えてはいません。」
今回の取材で印象にのこったのは、『鶏白湯ラーメン最大手としての責任』という言葉だ。この言葉は、単に一企業の経営者としてではなく一つの業種業態を背負って立つことを意味する。そして、この言葉を掲げてアジアへ、世界へ出ていくということはすなわち日本を代表して世界と対峙することと同義だ。
今後の戦略として直営店の出店ではなく、FC戦略、あるいはラーメン業態のプロデュース、進出支援を挙げたことと密接に関わっているのだと思う。進出支援コンサルティング会社などではなく、実際にチェーン展開をしている飲食店経営者の言葉として発せられたことに期待したい。

(聞き手/まえだひろゆき)
大澤 武(おおさわ たけし)氏プロフィール
株式会社テイクユー代表取締役
1968年東京都生まれ。大手電子機器メーカーに勤務する傍ら、2002年からラーメン店のFC経営を始める。2012年11月、テイクユーを創業。ボランタリーチェーンとして鶏白湯ラーメン店のチェーン本部を運営する。その後、2016年よりシンガポールを皮切りに海外進出。東南アジア、中国、香港へと次々に出店先を広げ、2018年にはドイツのデュッセルドルフに出店。ヨーロッパへの最初の出店を果たす。現在、日本国内に直営23店舗、FC6店舗、ボランタリーチェーン76店舗と海外に8カ国11店舗を展開する。

(取材=まえだ ひろゆき)

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