金曜日の夜、誰もが楽しい時間を期待している“花金”。韓国では “ブルグン”( 燃える金曜日)と呼ぶ。“ブルグン”のソウルの人気エリアの一つである梨泰院(イテウォン)には、 誰でも楽しむことができる様々なお店がいっぱいある。 地下鉄6号線梨泰院駅を出てすぐのハミルトンホテルの路地裏(世界飲食特化街とも呼ぶ)は、ソウルの飲食シーンで欠かせない重要な街である。 韓国料理はもちろん、タイ、チャイニーズ、中東などのアジア料理とイタリアン、スペイン、メキシカン、フレンチなどの西洋系の店舗と一緒に日本から来たお店の出店地域でも象徴的な街である。 4月に3周年を迎える直営進出のやきとり専門店「ごう」と、4月7日に1周年パーティーをする「オリエンタルビストロ アガリコ」、そして韓国の大手ハンファグループがフランチャイズパートナーとして導入した「俺のイタリアン・フレンチ」など、多くの日系飲食企業の出店候補地1位の地域でもある。 梨泰院を含め、外資系、その中でもとくに日系飲食ブランドの出店候補地としては、現在、ソウルでは以下の五つの街(エリア)が目立つところだ。
ソウルの人気 飲食エリア五つの街の紹介
梨泰院(イテウォン): ソウルの中心部である明洞と南山からほど近い距離にある多国籍文化が溢れる街が梨泰院だ。米軍基地も近くにあって、韓国で一番大きい総合広告会社である第一企画(ジェイルギヘック)の本社も地域内にあり、以前からアメリカを中心とした様々な国籍の外国人の顧客の流入が多く、多様な文化の発信拠点としての特徴を持つ街だ。主要顧客の年齢は20代後半〜40代の異文化への受容性が高く、感度の良い顧客が多いのも特徴である。主要飲食店: アガリコ、俺の、ごう、麺屋3代目、錦(うどん)、マイタイ(タイ料理)など
弘大(ホンデ) :アートとデザインに関しては、韓国で最も有名な大学である弘益大学周辺の商圏を弘大と呼ぶ。 芸術大学が有名なこともあり、以前から美術、音楽を中心にしたアンダーグラウンド文化が深く存在する地域であり、日本での生活経験がある韓国人たちと日本人が直接運営する日本式居酒屋、ラーメン、うどん、カレーなどの店舗が多くある地域でもある。 大学生を中心に20~30代会社員など、比較的若い世代が主に集まる街でもある。
主要飲食店: 博多文庫(ラーメン)、居酒屋花伝(カデン)、あびこカレー、丸亀製麺、 おびや(そば)など
江南駅(ガンナムヨック) : ソウルで最も地下鉄乗降人員が多い(2号線 江南駅 、1日乗降人数20万人以上) の地域で、サムスン本社をはじめとする多くの企業や英語塾などの語学学校なども多く、会社員たちと共に若い人たちが多い地域が江南駅地域である。 大衆的で、カジュアルな飲食店やカフェなどが多く、比較的客単価も手ごろな店が多い。
主要飲食店 : 洋麺屋五右衛門、レタス(しゃぶしゃぶ)、モスバーガー、焼肉トラジ、ワタミなど
ガロスキル : ソウルの東西を横切る江の漢江(ハンガン)の中心を南北で接続する大橋である漢南大橋の南端、地下鉄3号線新沙(シンサ)駅8番出口を出て、現代高校までの約700メートルの並木道(韓国語:ガロスキル)を中心とする街をガロスキルと呼ぶ。昔はギャラリーなどが多く、文化、芸術を中心に集まった人々の個性的な店が集まったセンスのいい大人たちが集まる街として人気が高かった。 2010年以降には、グローバルファッションブランドやコスメなどが出店ラッシュで、以前の味は薄くなったが、メインストリートの両サイドに商圏がますます拡大され、飲食を中心に活況が続いている。 ガロスキルの一つの特徴としては、街全体に流入する人口のうち、女性の割合がかなり高く 、その分デザート、ベーカリーなどのスイーツ系が発達している地域でもあるということ。今後も女性の顧客を中心ターゲットとする飲食店の候補地としては、有力な地域の一つである。
主要飲食店 : サロン・ド・モンシュシュ、東京パンヤ、ル・タオ(北海道チーズケーキ)、古奈屋(カレーうどん)、ハイボールガーデン、ネギ(割烹料理)、ミケラーバー(クラフトビール)など
清潭洞(チョンダムドン) &狎鴎亭(アップグジョン) : ソウルの高級ブランド通り、グローバルラグジュアリーブランドのフラッグシップストアが軒を並ぶハイエンドな街が清潭洞と狎鴎亭地域だ。 エルメス、ディオールなど有数の高級ブランドが唯一路面単独店舗を出す地域でもある。 そして、10CORSO COMO(テンコルソコモ)、BOON THE SHOP、KOONなどの高級セレクトショップなども集中している、いわばソウルで最も贅沢な消費が行われる地域である。 ファッションだけでなく飲食店においても高級なお店が最も多く集まっている地域でもあり 、日本で修業をした韓国人シェフや日本人シェプを迎えて日本本土の味に近いメニューを出すダイニング居酒屋、割烹料理店なども人気を集め運営されている。
主要飲食店 : ウルフガングスステーキハウス、ジョンシックダン(ニューヨークでミシュラン2つ星のモダン韓食)、 割烹アキ、一会(居酒屋)、ハシ(居酒屋)、スコッパザシェフ(イタリア人運営イタリアン)、 ル・チャンバー(バー)、 サルヴァトーレクオモ など
以上の五つの地域はそれぞれの魅力と特徴も違うが、今後ソウルへの出店を考える飲食店オーナーは必ず一度チェックすべきエリアであることは間違いないだろう。
そして今のソウルのフードマーケットを理解して頂くために目を通して置きたいキーワードをいくつか紹介する
1、ミシュランガイドソウル版の出版
100年の伝統を誇り、 現在、全世界26カ国を対象に、レストランやホテルを評価するガイドブックである「ミシュルランガイドソウル編」が今年から調査が始まり、2017年版として出版される予定だ。これが出版されると、ソウルはアジアで東京、香港及びマカオ、シンガポールに次いで4番目の都市になり、27番目のガイドブックの主人公となる。ミシュランガイド側の関係者は、ソウルのグルメ文化は、世界最高水準に発展しており、屋台の食べ物から本格的な韓国料理まで非常に多彩に構成されていることを賞賛したという。 実際のガイトが発刊されると、それに伴う光と影が出てくるだろうが、ソウルの飲食市場をより発展させる良い影響があることを期待する。2、モダンコリアン(韓食)の人気
先月バンコクのW HOTELで開催された2016年のアジアのベストレストランのランキングの発表で、ソウルの 「ミングルス」が15位に新たにランク入りした。 カン・ミングシェフが率いる「ミングルス」は、伝統的韓国料理を食材本来の味を生かしながらも、現代に合わせて新たに再解釈して提供し、多く愛されている。 また、22位で、2年連続のベスト50に入った 「ジョンシックダン」も、モダンコリアンを提供しており、ニューヨーク支店は、ミシュランガイドの星2つを獲得した。 今後も韓国料理を今の時代に合わせて提供する様々なレストランがたくさん出てくるものと期待される。3、グループではなく、“一人ご飯”“一人酒”の流行
韓国では、仕事の延長線上に会社の上司と取引先の関係者との会食など、グループとして酒とご飯を食べることが多かったが、低成長の中、雇用形態の多様化などで、ワークスタイルの変化とともに、本当に一緒に食べたい、飲みたい人と行きたいお店を選んでいく形の飲食文化が発達しており、その中でも、最近では一人でご飯を食べて(ホンバプ)、一人で酒を飲む(ホンスル)人も増えて、1人用メニューなどスモールポーションのメニューを提供する形態のお店も徐々に増えている傾向にある。 ホンスル市場の発達で自然にバー文化の拡散と、色んなシーンで選べるバーやビストロも増えている傾向にある。4、小さ な贅沢、デザート市場の拡大
世界的な不況の中、韓国でも低成長の影響で消費心理が低下しているとのニュースを良く耳にするが、そのような中でも、日常での小さな贅沢を楽しもうとする人々がデザートを消費する傾向が明らかに出て出ている。長期化する景気低迷の中でも消費欲求を率いるデザート専門店は毎年20%の成長ぶりを見せている。デザート市場は着実に成長しており、その中でもデパート3社(ロッテ、新世界、現代)のデパー地下でのデザート店の競争が加速してデザート市場の規模は年間2兆ウォン以上の規模で急速に成長している。5、「アメリカBBQスタイル」の登場
アメリカで生活した経験がある在米韓国人と帰国留学生などがオープンしたアメリカンバーベキューレストランが飲食マーケットに新たに登場して徐々に人気を集めている。 代表的なお店としては、 「LINUS BBQ」「LOCOS BBQ」「MANIMAL SMOKE HOUSE」「KINDERS」「HOLY SMOKE」などが名を上げている。6、クラフトビールの活性化
昔から韓国のビールは不味いと、誰もが口をそろえて言ってきた。水のように薄いラガービールが主流をなしていて国産ながらも人気がなかった。という理由もあり、数年前からはドイツ、日本などの輸入ビールの人気がますます高まってきている状況であった。このような変化の中で、2~3年前から、素晴らしい味のビールを売るクラフトビールのお店が生まれ始めた。クラフトビールは、大企業のビールよりもはるかにおいしい。 そしてビールをがぶ飲みしたり爆弾酒で飲む代わりに、ビールの味をしっかりと味わいながら、ゆっくりと飲むスタイルも増えてきた。クラフトビールの会社は規模は小さいが強みが多い。ほんの数年前まではこのように、さまざまな種類の美味しいビールがソウルで飲める様子は想像もできなかった。このような変化は、非常に良い例だと思う。クラフトビールの発達とともにそれに合うメニューの発展も行われるからである。ビールが好きな人には楽しい時代になってきた。成熟していくソウルの飲食マーケットで顧客に問われる価値とは
レタス、新宿のサボテン、COCO壱番屋、スシロ、かっぱ寿司、がってん寿司、洋麺屋五右衛門、サルヴァトーレクオモ、モスバーガー、 古奈屋、バルミチ(肉バル)、 東京パンヤ、 モンシュシュ、ワタミ、丸亀製麺、かつや、ミスタードーナツ、やまやなど、ソウルでの日本発の飲食ブランドは少なくない。その中には、「サボテン」(66店舗)のように韓国の大企業系列の専門会社(カリスコ)がマスターフランチャイズ契約を通じて展開している場合と、「アガリコ」のように現地のパートナー企業と一緒に展開するケース、そして「丸亀製麺」や「ごう」のように直接進出するケースなど、ブランドの業態の特徴や経営者の判断でブランドごとに進出の形態は異なるが、最近では、韓国人の日本現地での飲食経験が増えてきており、昔のような韓国人が真似た和食や居酒屋はますます人気が落ち、日本で修業してきた、例えば延南洞(弘大地域)にある居酒屋「花伝」や日本から直接入ってきた本物の焼き鳥専門店「ごう」などが人気がある。ソウルの飲食市場も価値のあるものについては、立地が少し不便でも、単価が少し高くても選択をしてくれる顧客層が増えている。 そしてそれとともに店で過ごす時間全体での経験、コミュニケーションなど、総合的に価値を判断する傾向が強まっている。そういった面では、日本の店ならではのサービス(おもてなし)を感じることができる店づくりができれば大きな魅力になるだろう。 では次回では、実際にソウルに進出して運営をしている日本飲食の関係者とのインタビューを通じて、ソウルそして韓国の飲食マーケットについて語ってみよう。ハウマックスコリア代表取締役 申 宇徹
《プロフィール》
申 宇徹 (シン ウチョル) SHIN WOOCHUL
ハウマックスコリア HOWMAX KOREA 代表取締役社長
(http://www.howmax.co.kr)
韓国ソウルの東国大学の人文学部を卒業後、2003年に日本の焼肉大手(株)トラジに入社。 2005年トラジ初の海外店舗となるトラジ・ダイアモンドヘッド店の立ち上げメンバーとして1年間ハワイで勤務後、エリアマネージャーとしてトラジコリアを設立及び担当。
2006年トラジ退社後に韓国に帰国し、ミュープラニング社の韓国パートナ企業で飲食コンサルタントとして勤務し、アジアン、イタリアン、コリアンなど飲食店の企画、開発、運営などに関わる。
2010年より日系不動産コンサルティング会社である(株)ハウマックスコリアにて韓国と日本を中心に商業施設の開発コンサルティング・テナントリーシングなど不動産業務と海外進出サポート・ブランド導入などのビジネスコンサルティングサービスを担当している。2016年1月に同社の代表取締役社長に就任。