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インタビュー

【タイ発】お笑い芸人から飲食業界に転身 バンコクでミシュラン星を目指す All Blue Food Co., Ltd. 井上 虫歯二本

バンコクの日本食レストラン市場がレッドオーシャン状態になったと言われて久しい。日本食レストラン全体が増加傾向にあるにもかかわらず、業態よっては出店数と退店数が拮抗してしまっている例もある。特に、居酒屋業態、焼肉店業態でこの傾向が激しい。バンコクに出店してから長い時間が経ち、順調に売り上げを伸ばしてきたはずのお店でも競争の激化から退店に追い込まれるケースも珍しくない。

このような情勢の中、顧客層の変化に対応したメニューの大幅入れ替え、業態の転換などによって生き残りを模索する店舗が多い。それまで、圧倒的に日本人の顧客が多かった日本食店がタイ人顧客の増加に合わせて、アルコール類の売上減に対応した食事中心のメニューに刷新した例や、日本人対象の居酒屋業態だった店舗をタイ人顧客の嗜好に沿った食べ放題メニューに特化することで、タイ人が行列を作ってまで来るようになった成功例もある。

今回の取材にご協力いただいた「Live Kitchen 天翔」を出店したAll Blue Food Co., Ltd.は、日本では居酒屋とラーメン店を経営している。しかし、今回のタイ進出にあたって、バンコク中心部のスクムビット、ソイ24にあるホテルの1階に店舗物件を確保したことから、日本でも経験のない本格高級和食店をオープンすることにした。バンコクでは人気業態ではあるが、飽和状態にある居酒屋、ラーメン店での勝負を避けてより強くタイ人顧客に訴求する業態としての選択だ。

市場環境と店舗立地という要素を考慮した経営的判断ということになるが、経験値のない業態を海外進出の1号店に選んだというのは、勇気のある決断だったと思う。もちろん、一流の和食の料理人を採用したり、オープンキッチンに対応した設備への投資も含めて周到な準備も欠かしていないのではあるが。

そして、インタビューに登場するのは、「Live Kitchen 天翔」の顔となるマネージャーの 井上 虫歯二本さん。井上さんは九州から東京へお笑い芸人を目指して上京。そして8年後、一転飲食業界で生きていくことを思い立った。お笑いにかけた思いはそのまま居酒屋店長に注がれ、阿佐ヶ谷の名もない居酒屋を地域一番店に盛り上げた。そして2019年、人生初の海外就職としてタイを選んだ。


吉本興業時代の井上さん



ー飲食の世界に入る前はお笑い芸人をやっていたそうですが。
井上 虫歯二本さん(以下、井上): 小倉の高校を出てから大阪の大学に入学したんですが、2年生の時に単位が足りなくて、このペースだと卒業まで7年かかると言われましたので中退したんです。そのあと、小倉に戻って立ち飲みバーを一軒任されていました。その時に東京の大きな居酒屋の店長をやってみないかと誘われました。でも、その時はそれを断って吉本興業に入りました。それが22歳のとき2007年です。そこから8年間東京の吉本興業で「井上 虫歯二本」の芸名でお笑い芸人をやっていました。東京にある「ヨシモト∞ホール」で月に2回のライブをやったり、「ベースボールマガジン」の連載も持ってました。

ーどういうキッカケで飲食の世界に入ったのですか。
井上: 吉本興業から近くにあった「うま馬」という東京駅にあるラーメン居酒屋で店長もやってました。その時はアルバイトでしたが、売り上げを任せてもらったり、外国人の店員の教育もやってました。吉本興業に所属しながら、「うま馬」には6年いましたが、本気で飲食の世界でやっていきたいと思い、吉本興業での仕事は続けながら、いまのタイのお店のオーナーがやっていた阿佐ヶ谷にある居酒屋「浩太郎丸」で働き始めました。100席ある大型店でしたが、ぜんぜんお客さんが入ってなくて、月に300万円も売ってなかったお店でした。ここが本格的に飲食の世界に入った始まりでした。

表通りに面したファサード



ーでは、タイにお店を出すような経緯についてお聞かせください。
井上: 「浩太郎丸」と2018年にオープンしたラーメン屋の「六九麺」をやりながら、「浩太郎丸」のような楽しい居酒屋と「六九麺」のようなラーメンダイニングを融合したラーメン居酒屋を海外で出店したらウケるんじゃないかと思うようになりました。お相撲さんの知り合いもいたので、ちゃんこ鍋なんかも出したらイケるんじゃないかとか、お店の中にちゃんこ場があって土俵があって、僕が行事の格好をしてサービスしたら面白いねとか。そんな話で盛り上がってました。

ー今度オープンするお店とはぜんぜん違うように思いますが。
井上: そのあと、話が進み、今年の3月に運命的な出会いがあったんです。ビッグチャンスだと思いました。ちょうど物件を探している時にプロンポンという駅からすぐのホテルの1階に空き物件があったんです。またとない物件でした。ここでチャレンジしようという気になりました。この物件を見た時に居酒屋やラーメン店を日本でもやってきたけど、全く違う業態に挑戦しようという気持ちに変わりました。その後は急ピッチで方向を変えました。

タイ人、日本人スタッフのみなさん



ーどのようなお店にしていこうと考えてますか。
井上: タイのことを調べていくと、有名店でも和食屋や居酒屋がどんどん潰れていくという情報が入ってきて、ふつうのコトを普通どおりにやっていっても勝てる時代は終わったという認識になってきました。勝ってる店、ちゃんとお客さんを喜ばせている店はどんなことをしてるのかを考えたときに、2つのことを考えました。1つは、インスタ映えだったり、おしゃれだったり、最先端のお店が勝ってるなという事実。もう1つは、違う世界を体験できるような場所。つまり日本を体験できる、タイじゃないところにいるような時間を過ごせる場所がつくることができれば勝てるということです。客単価の想定は2000-3000バーツです。イメージとしては、「北大路」、「ゐざき」ですかね。

ー具体的にはどういうことですか。
井上: ①まず、小さな日本に来たような感覚です。海外の人同士で日本語があふれるような場所です。見るものすべてが日本というような。日本人向けじゃないのに日本語しかない店なんです。メニューには英語も書いてありますけどね。タイ語は禁止します。スタッフ同士も日本語で話すようにします。②日本人スタッフをどんどん増やしていく予定です。タイの和食屋さんは日本人スタッフは基本1人ですが、今度のお店では、5人の日本人を置きます。③月替りで芸者、琴、三味線、落語、歌舞伎をやっていく予定です。プロンポンに芸者が歩く日も近いです。④そして、料理長のケンイチ・カナウチです。東京の「なだ万」出身で、シャングリラホテルでもシェフとして活躍し、フィリピンのデュシタニでも総料理長をやってました。料理に関しては彼の作る作品を感じてもらいたいです。刺し身、天ぷら、鉄板焼き、炭火焼がライブキッチンとして目に見えるところで感じられるようになってます。

ーこのお店ののオススメはなんですか。
井上: 看板メニューはマグロです。専属の職人が毎日豊洲まで行き目で見て、触って良いものをタイに送ります。そして牛タンは日本で1番美味しい牛タンをタイでも食べれるようにと、極秘の製造方法を持って参りました。とろけるような日本一の牛タンをお召し上がりいただけます。また、調理場とお客様との距離が近くお客様もステージに立っているような感覚を体験できます。寿司、刺身、炭火焼、鉄板、揚げ物と5つのステージに分かれており、食べたいものを目の前で調理していきます。昔ながらの伝統的な和食の調理法で、丁寧に調理して提供します。新しいものが多く出る時代だからこそ原点に戻って本当に美味しいものは何かをみなさんに感じてもらえればと思います。

スタッフ運動会



ーお店をオープンするまでの間困ったことはどんなことですか。
井上: タイの内装工事会社は仕事が遅い、スケジュール通りに終わらないということを聞いていましたので、内装工事は日系の会社にお願いしました。にもかかわらず、工事に大幅な遅れが出てしまいました。工事が遅れている一方でスタッフの採用は順調に進み、人数も揃っていました。スタッフのトレーニングはもちろん続けてやっていましたが、工事が長引いてスタッフのモラルの低下が目立ってきました。いわゆる中だるみと言われる時期です。そこで、この余った時間を無駄にしないように、日本人とタイ人、スタッフ同士のコミニケーションを育んでいく時間にしようと思いました。例えば、社内運動会、食事会、弁当交換会、ジャンケン大会などのリクリエーション活動を通じてお互いの理解を深めようとしたのです。結果としてスタッフ全体の結束力強化につながったと思ってます。

ーこれからの目標としてどんなことを目指しますか。
井上: 現在、飽和していると言われるタイの日本食業界ですが、もう一度本物の和食、本物のおもてなしを見つめ直し、お客さんに本当の日本のパワーを感じてもらえるようなお店にしていきたいと思ってます。そして、目指せ世界初の芸人ミシュラン星獲得。タイのミシュランガイドブックで星を獲得することを目標にすると宣言します。

ー本日はありがとうございました。

(取材=まえだ ひろゆき)

店舗データ

店名 Live Kitchen 天翔
住所 12, Sukhumvit24, Klongtan, Kongtoey, Bangkok, 10110
電話 02 011 1102
営業時間 11:30〜24:00
定休日 なし
運営会社 All Blue Food Co., Ltd.
オープン日 2020年1月15日
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