九州最大のうどんチェーン「WEST」130店舗を中心に焼肉店、中華料理店、和食レストランなど約200店舗を展開する ウエスト。その東南アジア初上陸となるそば居酒屋「生そば あずま」を2015年12月にタイ・バンコクにオープン。今年8月1日にタイでの2号店目として、異業態の「焼肉 あずま」をオープンした。ウエストの現地法人KAWANO WESTの川野敦史社長に、タイへ進出した経緯、業態選定の背景、今後の展開について聞いた。
ー飲食関係のお仕事にかかわったきっかけは?
もともとは、大学時代から飲食店のアルバイトなどを経験していたのですが、大学卒業後の1989年、ニューヨークに渡り、うどんチェーンで有名な地元福岡のウエストの米国法人である「イースト」に入社しました。これが現在に至り、それ以来ずっと飲食業と関わってきました。ニューヨークには1998年まで9年間いたのですが、その間、系列店の回転寿司、おでん店に勤務しました。その後、ジャパニーズファストフードとしてニューヨーカーたちの間でも有名となる「テリヤキボーイ」の責任者となりました。当時日本食といえば、日本人ビジネスマンのための日本食店がほとんどだったのですが、「テリヤキボーイ」をはじめとする「イースト」が経営するお店はニューヨーカーをターゲットとする日本食店の先駆けとなりました。
ー東南アジア進出最初の地としてタイを選ばれたのはなぜ?
次の海外展開は東南アジアだというイメージを持っていたので、2014年からタイ以外にもベトナム、ラオス、ミャンマーなどを視察してまわりました。その結果、数多くの日系飲食店がすでに成功している場所としてタイのバンコクを選びました。在住日本人の数も多いことと、日本と同じクオリティーのものを提供することでお客様が喜んでもらえる土壌があるのではないかという印象を持ったのもその理由の一つです。ータイ一号店をそば店という業態に決めた理由は?
ウエストは日本でうどん以外にも様々な業態を展開しております。焼肉、寿司、居酒屋などですが、その中で当地の気候などを考えてそば居酒屋という業態が最適なのではないかと考えました。なぜかと言うと、日本では、うどんは熱いメニューが中心、そばは冷たいメニューが中心となるからです。つまり、うどん業態は冬が繁忙期、そば業態は5月から8月にかけての夏が繁忙期となり、年中夏のような気候のタイではうどんよりはそばが受け入れられるのではないかと判断したため、一号店はそば居酒屋「生そばあずま」という業態に決定しました。
ータイに視察に来て参考となったお店は?
同じく、そばとお酒がメニューの中心になっている「みつもり」が参考になりました。立地が奥まったところにありながら、数多くのお客様が来られていることを目の当たりにして、ちゃんとしたクオリティーのものを提供すれば、必ずお客様が来てもらえるんだと確信したわけです。それ以外には、居酒屋の「なぎ屋」「しゃかりき432″」も、多くのお客様に受け入れられている印象があり、そういった意味で意識はしています。ー出店する際に立地などに注意している点は?
日本人が多くいらっしゃるエリアであれば、多少奥まったところにあっても、満足してもらえるものを提供できればお客様に来てもらえると思っています。「生そばあずま」があるスクムビットのソイ33についても、風俗店が多い通りだったため、家族連れは来にくいのではと心配してくださった方もいましたが、実際には家族連れを含む多くの日本人の方に来ていただいてます。
ーそば業態に続いて焼肉業態を出店した背景は?
まずは、一号店の近くになんらかの別業態のお店を出して、管理が行き届くと言う意味で、マネジメントリスクを減らそうという考えが最初にありました。そして、となりの通りのスクムビットに大型店舗物件があり、焼肉店を出店しようかということになりました。日本で60店舗を展開する焼肉業態には自信がありましたので、この場所に焼肉業態を出店することに決断したわけです。一号店の近所ということもあり、すでに「生そばあずま」にご来店いただけてるお客様も来やすいのではないかとの考えもありました。日本では、「焼肉WEST」というブランドで展開しておりますが、バンコクでは、「生そばあずま」の名称が定着してきたと判断し、「焼肉あずま」にしました。ー焼肉業態の新店舗の特徴はなんでしょう?
日本で30年間焼肉業態を担当していた人間を応援に来てもらい、タイ独自の市場環境に基づいた商品開発、食材調達を行いました。具体的には、バンコクにある牛肉取り扱い業者全てからサンプルを取り寄せ、部位ごとに最適な品質の肉を選りすぐりました。その結果、和牛は神戸ワインビーフ、その他、USビーフ、オージービーフ、タイ産の人気ブランド牛であるタイフレンチを部位ごとに調達しています。
ただ、一部の内臓系など日本で提供している品質に満たないものしか調達できなかった部位に関しては残念ながら提供を見送ることにしました。タイで調達できる野菜に関してもキムチの材料となる白菜、ダイコンと異なり、キュウリの品質が今ひとつだったのでキムチメニューには載せませんでした。また、ご飯に関しては他店との差別化と言う意味でタイ産の日本米ではなく日本からの輸入米を使用しています。タイ産の日本米もかなり美味しいとは思うんですが、少しでも美味しいご飯をお客様に食べてもらいたいという思いです。
ーこれからタイに進出しようと考えてる方に何かメッセージを。
特にこれと言ったことはないです(笑)。ただ一つだけ言いたいことは、すでにこちらでお店をやられている方からアドバイスを受けましたが、自分の目で見て、自分の肌で感じて初めてわかることがいっぱいあるってことですね。不動産物件にしてもまず自分で足を運んで確かめるってことですね。シーラチャのイオンモールに関してもいろんな方から勧められましたが最終的に出店を見送りました。自分自身で何度か現地に行き、あらゆる角度から検討しました。あの時の自分の判断は正しかったと思います。
ー今後の展開についてお聞かせください。
とりあえずは、今年中にもう一店舗出店したいと思っています。業態的にはうどん店を考えてます。現在ある店舗がスクムビットのソイ33と31ですが、この近辺、遠くてもトンローまでのエリアにうどん店を出したいと思ってます。これは、マネジメントリスクを減らすと言う意味で、焼肉業態を出店した時と同じ発想です。いわゆるドミナント式に出店していこうと考えですね。あとは、小さな立ち飲み居酒屋をどこかに出店したいなと思ってます。その次のステップとして、しばらく先のことになると思いますが、タイ人をメインターゲットにした業態をショッピングモールのフードコートなどに展開したいと思っています。ちょうど、ニューヨークでアメリカ人向けに「テリヤキボーイ」をヒットさせた時のようにタイにおける日本食の新しいスタイルを提供できればと考えてます。
(聞き手/まえだ ひろゆき)
KAWANO WEST CO.,LTD. 代表
大学卒業後、地元福岡にて飲食店に勤務。その後、1989年に単身渡米。ニューヨークにてやはり地元福岡のウエスト米国法人「イースト」に就職。1998年までさまざまな店舗の立ち上げ、マネジメントに携わり、焼き鳥、回転寿司、うどん、居酒屋、カラオケなど20店舗以上の飲食店グループの責任者として活躍する。その中でも「テリヤキボーイ」はジャパニーズファーストフードとしてニューヨーカーに大人気の店となった。日本へ帰国後、ウエスト日本本社に勤務。うどん業態130店舗の責任者を経て、2014年より、取締役海外事業部長として東南アジアの市場を開拓。東南アジア初拠点となるKAWANO WESTを立ち上げる。
1966年創業の福岡県を基盤とする外食チェーン。うどん業態の「WEST」を含む、焼肉店、中華料理店、和食レストランなど約200店舗を展開。1983年、同社初の海外店舗、和食レストラン「イースト」を米国ニューヨークに開店。その後、寿司、うどん、居酒屋など米国各地に30店舗以上を展開。2015年、東南アジア初の店舗となるそば居酒屋「生そばあずま」をタイ・バンコクにオープン。今年8月1日にタイでの2号店目として「焼肉あずま」がオープンした。