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編集長コラム

地下鉄開通で激変するベトナム飲食地図。オーバーストアの荒波を越える『先駆者の投資』と『住む覚悟』とは?

PROFILE

菅野 壮紀

菅野 壮紀(かんの たけのり)
APPLILAB SINGAPORE CEO 飲食業界向けITソリューションを提供するAPPLILAB SINGAPOREのCEO。 シンガポールを拠点に、東南アジアを中心とした世界の飲食トレンド、Food Tech、店舗経営の最前線を定点観測している。 現地のリアルな事情に精通し、日本の飲食企業が海外の知見を取り入れるための架け橋として活動中。 https://applilab.sg/


フードスタジアムの読者の皆様、こんにちは。
飲食ライターとして世界各国の「今」を追っていますが、今最も熱気と混沌が同居している国といえば、間違いなく「ベトナム」でしょう。

先日、現地を訪れて感じたのは、数年前の「勢い任せの成長」から、インフラ整備を伴う「構造的な変革」への移行です。
しかし、その光の裏には、進出企業が必ず直面する「ベトナム特有の壁」も厚く立ちはだかっています。

今回は、最新の現地情勢を交え、日系飲食企業がベトナムで生き残るための「覚悟」について掘り下げます。



## 動き出した地下鉄、劇変するドミナント戦略

ベトナム、特にホーチミンやハノイでは今、都市の風景が文字通り「日単位」で変わっています。その象徴が「地下鉄(メトロ)プロジェクト」です。
長らく「いつ開通するのか」と言われ続けてきましたが、ようやく全体像がマップとして可視化され、駅周辺の開発が猛烈な勢いで進んでいます。
これまではバイク移動が前提の「ロードサイド」や「路地裏」が主戦場でしたが、
これからは駅直結の商業施設や、駅からの徒歩圏内という、日本に近い「面」でのドミナント戦略が重要になってくるでしょう。

不動産価格の高騰は続いていますが、このインフラ完成を見越した先行投資ができるかどうかが、数年後の勝敗を分ける境界線になります。

(筆者撮影:ホーチミンの地下鉄路線図。ほぼ完成していない)

## 「テト(旧正月)」の洗礼と、シビアな予算策定

ベトナム進出において、経営者が最も頭を悩ませるのが「テト(旧正月)」の存在です。
私が先日訪問した際も、ちょうどこの時期でした。街の機能は完全にストップします。
ローカル企業は当然のようにクローズ。
では日系企業はどうかといえば、開けたくても「バイトが集まらない」ため、休業を余儀なくされるケースが多発しています。

ベトナム人にとってテトは絶対的な帰省シーズンであり、倍以上の時給を提示しても人は集まりません。
この「動かない1週間」をあらかじめ織り込んだ予算策定をしておかないと、キャッシュフローは一気に危うくなります。

また、現地で現在進行形の混乱を招いているのが「税制改定(レッドインボイス)」の運用です。
デジタル化への移行期にありがちな「ルールが現場で浸透していない」「当局によって解釈が違う」という事態が頻発しています。
このあたりは「落ち着くまで待つ」のではなく、試行錯誤を繰り返しながら現地の会計事務所と密に連携するタフさが求められます。

(筆者撮影:レタントン通り。東京で言うと歌舞伎町前の靖国通り。平時は渡るのに勇気が必要なほどずっと交通が絶えない)

## 「オーバーストア化」という現実

ベトナムはあと数年は間違いなく成長を続けるでしょう。
しかし、飲食業界の視点で見れば、すでに「オーバーストア(店舗過剰)」の状態に突入しつつあります。

かつてのように「日本食というだけで珍しがられる」時代は終わりました。
韓国資本、中国資本、そして急成長するローカルのハイエンド業態が、凄まじいスピードで市場を奪い合っています。

このレッドオーシャンで勝ち抜くには、「早めに投資し、いかに早く先駆者としてのポジションを確立するか」。
これに尽きます。後発になればなるほど、物件取得費も人件費も跳ね上がり、回収までのハードルは高くなる一方です。

## 「店長派遣」では勝てない。求められるのは「住む覚悟」

最後に、ベトナムに限らず海外展開を成功させている企業に共通する、最も重要なポイントをお伝えします。
それは、日本から「優秀な店長を数年派遣する」という甘い考えを捨てることです。
ベトナムのスタッフは非常に勤勉で上昇志向が強い反面、上司との信頼関係が崩れれば一瞬で離れていきます。
マニュアルを渡して「あとはよろしく」では、組織は1ミリも動きません。

必要なのは、経営層やキーパーソンが「現地に住む覚悟」を持つことです。
現地の空気を感じ、スタッフと同じ飯を食い、トラブルが起きれば夜中でも駆けつける。
その熱量があって初めて、現地スタッフは「この人のために働こう」と動き出します。

「海外展開」という華やかな言葉の裏にあるのは、泥臭い人間関係の構築と、文化への深い没入です。
ベトナムという魅力的な市場に挑むなら、その土地に骨を埋めるほどの覚悟があるか。
今一度、自問自答する必要があるのかもしれません。



いかがでしたでしょうか。ベトナム市場のポテンシャルとリスク、そのリアルを感じていただければ幸いです。

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