2025年、幕開けと共に降り立ったのは、東南アジアのハブとして進化を続けるマレーシア・クアラルンプール(KL)です。
日本の飲食企業にとって、タイやベトナムは既に「開拓済み」の感があるかもしれませんが、今改めて注目すべきは、この多民族国家が示す「多様性への最適解」ではないでしょうか。
### DXとホスピタリティの融合。空港線で見えた「スピード感」
空港から都心へ向かう「KLIAエクスプレス」に乗り込む際、まず驚かされたのは徹底されたデジタル化でした。
もはや物理的なチケットやICカードは過去の遺物となっています。スマートフォンに表示されたQRコードをかざすだけで、ノンストップでホームへと導かれます。
この「最先端」の光景は、駅構内や街中の飲食店でも同様です。モバイルオーダーはもはや「標準装備」といえるでしょう。
しかし、そこにあるのは冷徹な自動化ではありません。
デジタルが効率を担保する一方で、スタッフは「人間にしかできない接客」にしっかりとリソースを割いています。
DXの真の目的は、単なる人件費削減以上に「顧客体験の質を上げること」にあるのだと、到着早々突きつけられた気がいたしました。
(ただし、筆者はマレー語が話せないのでデジタル万歳でしたが笑)
(KLIAエクスプレス 券売機)
### 「ハラル」という壁を、どうビジネスの武器に変えるか
マレーシアを語る上で避けて通れないのが、イスラム教を国教とする背景です。
「ハラル(Halal)」という言葉に、日本の飲食業者の皆様はどこか「難しさ」や「制約」を感じ、二の足を踏んでしまう傾向があるかもしれません。
しかし、現地を歩けばその認識はすぐに変わるはずです。確かにアルコールや豚肉の取り扱いには厳格なルールが存在します。
ですが、それは「排除」ではなく、あくまで「相互理解」のためのプロトコルに過ぎません。
例えば、現地で成功している日本食レストランを見てみてください。
彼らは豚肉を使わずに、鶏の脂や牛骨を駆使して「濃厚なラーメン」を見事に再現し、ムスリムの若者たちの行列を作っています。
制約があるからこそ、クリエイティビティが研ぎ澄まされるのです。
2025年の今、ハラルは単なる宗教的配慮ではなく、「人口20億人の巨大市場へアクセスするためのパスポート」へと昇華していると言えます。
### 日本人街「モントキアラ」に見る、安心感の重要性
一方で、異国での挑戦に過度な不安を感じる必要はありません。
高級住宅街である「モントキアラ」などの日本人コミュニティへ足を運べば、そこには驚くほど馴染み深い風景が広がっています。
日本の居酒屋、焼肉、寿司。そこではアルコールも提供され、日本人シェフが腕を振るっています。
大切なのは「怖がること」ではなく「理解すること」です。どのエリアで、誰をターゲットにするのか。
ゾーニングさえ間違えなければ、マレーシアは世界で最も日本食へのリスペクトが厚い国の一つであることに気づかされます。
現地の人々は、日本の食文化に対して極めてオープンです。
「理解したい」という姿勢さえあれば、彼らは驚くほど温かく迎えてくれるでしょう。
### ペトロナスツインタワーの足元に、商売の原点を見た
KLの象徴である、ペトロナスツインタワー。
天を突く銀色の摩天楼は、マレーシアの経済成長を象徴するラグジュアリーな存在です。
しかし、一歩その足元へ目を向ければ、そこには熱気渦巻くローカルなフードストリートが混在しています。
高級モールの洗練されたレストランと、プラスチックの椅子が並ぶ屋台街。
この「超モダン」と「超ローカル」のコントラストこそが、KLの真骨頂です。
タワーを見上げるエリート層も、バックパッカーも、同じ屋台でサテ(串焼き)を頬張り、汗を流しながらラクサを啜っています。
この光景の中に、飲食店経営の本質が隠されているように思うのです。
どれだけテクノロジーが進み、建物が高くなろうとも、人々が求めているのは「エネルギーのある食」であり、「人が集まる場所」なのだということです。屋台の店主たちが放つ、商売への執着と活気。それらは、システム化されすぎた日本の飲食業界が、今一度取り戻すべきパワーではないでしょうか。
### 結びに:2026年、日本の飲食人はどこへ向かうべきか
2025年のクアラルンプールは、私たちに多くの「共生のヒント」を与えてくれます。
ハラルという規律の中に、いかに自由な発想を持ち込めるか。 デジタルという合理性の中に、いかに人間の温かさを残せるか。
「海外進出」を単なる市場拡大と捉えるのではなく、自社のアイデンティティを再構築する機会と捉えてみてはいかがでしょうか。
マレーシアの地で、異なる文化と正面から向き合い、最適化させていくプロセスこそが、これからのグローバルスタンダードにおける強靭な武器になるはずです。
KLの風は、かつてないほど熱く吹いています。この熱狂を、ぜひ現地のカウンターで体感してみてください。
編集長コラム
2026.02.27
【海外レポート】2025年、クアラルンプールの「共生」から学ぶ。ハラルと多国籍が混ざり合う、マレーシア飲食市場のリアル

菅野 壮紀(かんの たけのり)
APPLILAB SINGAPORE CEO
飲食業界向けITソリューションを提供するAPPLILAB SINGAPOREのCEO。
シンガポールを拠点に、東南アジアを中心とした世界の飲食トレンド、Food Tech、店舗経営の最前線を定点観測している。
現地のリアルな事情に精通し、日本の飲食企業が海外の知見を取り入れるための架け橋として活動中。
https://applilab.sg/
























