円安とインフレの波が落ち着く気配を見せない2025年11月。ハワイ・ホノルルには、パンデミック前を彷彿とさせる日本人観光客の姿があった。
しかし、そこで繰り広げられていたのは、以前とは全く異なる「外食の景色」だ。メガハイボールが1杯3000円という衝撃的な価格設定、そして悪化する治安。
このハードな環境下で、なぜ日系飲食店は勝ち続けられるのか? 現地視察で見えてきたのは、世界で戦うための「日本流・付加価値」の正体だった。
### メガハイ3000円は「チップ別」。突きつけられる価格の壁
ホノルルの中心部、ワイキキの風は相変わらず心地よいが、メニュー表を見た瞬間に背筋が伸びる。
現地の賑わう飲食店でメガハイボールを頼めば、価格表記は20ドル前後。現在のレートで約3000円だ。
しかし、これはあくまで「定価」に過ぎない。今や最低でも18〜20%、ディナータイムやサービスの良い店では25%がスタンダードとなりつつある「チップ」が加算される。
つまり、ハイボール1杯を飲むだけで、日本円にして3500円近い出費を覚悟しなければならない。ラーメン一杯、定食一つをとっても4000円~5000円の世界だ。
「高すぎる」と嘆くのは簡単だ。しかし、飲食業に従事する我々が見るべきポイントはそこではない。
「この客単価でも満席になっている店がある」という事実だ。
消費者は今、極めてシビアな選別を行っている。
「ただ高いだけの店」は閑古鳥が鳴き、一方で「その価格を払う価値がある店」には、人種を問わず長蛇の列ができている。この二極化が、2025年のハワイのリアルだ。
(季tokiメガハイボール:$20)
### 世界一売る「丸亀製麺」が証明するQSCの普遍性
その「勝者」の筆頭格が、クヒオ通りにある「丸亀製麺(Marugame Udon)」だ。
世界一の売上を叩き出すと言われるワイキキ店は、2025年の今もなお、ブロックを半周するほどの大行列を作っていた。
周辺のランチ相場が30~40ドルという中で、丸亀製麺は圧倒的な価格優位性を持っている。しかし、勝因を「安さ」だけで語るのは分析が浅い。
オープンキッチンから漂う出汁の香り、目の前で製麺し茹で上げるライブ感、そして揚げたての天ぷら。
これら「出来立ての品質(Quality)」と、行列をスムーズに捌く「オペレーション(Service)」が、
世界中の観光客に「40ドルのバーガーよりも、ここで並ぶほうが価値がある」と思わせているのだ。
インフレが加速するほど、基礎的なQSC(品質・サービス・清潔さ)の徹底が、他店との決定的な差別化要因になることを、あの行列は無言のうちに語っている。

(世界一の売上の丸亀うどんワイキキ店)
### 治安悪化のリスクを「安心感」という商品に変える
もう一つ、今回の視察で見逃せなかった変化が「治安の悪化」だ。
かつては「日本と同じ感覚で歩ける」と言われたワイキキ周辺でも、一本路地を入れば独特の緊張感が漂う。
ホームレスの増加や軽犯罪のニュースは、現地でビジネスをする上で無視できないリスクファクターとなっている。
しかし、この逆風こそが日系飲食店の追い風になっている側面がある。
日系のお店に入った瞬間に感じる、整理整頓された清潔な店内、明るい照明、そしてスタッフの目が行き届いている安心感。
これらは今、ハワイにおいて単なる「環境」ではなく、「代金を支払ってでも手に入れたい安全(セキュリティ)」という商品になっているのだ。
荒れた店外の環境と、規律ある店内のコントラスト。このギャップが、顧客に心理的な安らぎを与え、滞在時間の延長やリピートに直結している。
### 米国のチップ文化でこそ輝く、日本流「オモテナシ」の底力
そして何より、今回の日系飲食店の躍進を支えている最大の要因は、日本人が当たり前だと思っている「オモテナシ(Hospitality)」だ。
アメリカの一般的なサービスは、良くも悪くもドライで、チップのためのパフォーマンスという側面が強い。しかし、日本の接客は違う。
水が減れば注ぎ足し、空いた皿はすぐに下げ、メニューに迷っていれば声をかける。顧客のニーズを先回りする「察する文化」は、現地の顧客にとって衝撃的な体験なのだ。
チップという制度があるからこそ、この「オモテナシ」は最強の武器になる。
「こんなに気にかけてくれたのだから、チップを弾みたい」
顧客は感動をチップという形でお金に変えてくれる。従業員はモチベーションが上がり、さらに良いサービスを提供する。この好循環が生まれているのが、勝ち組の日系飲食店だ。
「メガハイ3000円」は高い。だが、そこに最高級の笑顔と気配り、そして安全な空間がセットになっていれば、顧客は「安い」とすら感じる。それがハワイの現状だ。
### 結論:日本の外食産業は、もっと自信を持っていい
2025年、ハワイの地で戦う日系飲食店は、非常に逞しかった。
彼らは、インフレも治安悪化もすべて「自社の強みを際立たせる背景」に変えてしまっている。
日本国内では「サービスは無料」と思われがちだが、一歩海を渡れば、我々の持つ「きめ細やかな現場力」や「オモテナシ」は、高額な対価を払うに値するプレミアムな価値となる。
ハワイで見た光景は、縮小する国内市場に閉塞感を感じている日本の飲食人へのエールだ。「日本の外食力は、世界でもっと高く売れる」。そう確信させてくれる視察であった。
編集長コラム
2025.12.26
【ハワイ現地レポート2025】メガハイ3000円(チップ別)時代の生存戦略。治安悪化のホノルルで「日本流オモテナシ」が最強の武器になる理由

菅野 壮紀(かんの たけのり)
APPLILAB SINGAPORE CEO
飲食業界向けITソリューションを提供するAPPLILAB SINGAPOREのCEO。
シンガポールを拠点に、東南アジアを中心とした世界の飲食トレンド、Food Tech、店舗経営の最前線を定点観測している。
現地のリアルな事情に精通し、日本の飲食企業が海外の知見を取り入れるための架け橋として活動中。
https://applilab.sg/
























