### 2015年と現在で様変わりしたプノンペンの街並み
私が初めてこの地に降り立ったのは2015年のこと。
当時のプノンペンは、舗装されていない道路に大きな穴が空き、信号機すら数えるほどしかありませんでした。生活インフラも不十分で、水道水は飲用はおろか、歯磨きをするためにもコンビニでミネラルウォーターを買うのが当たり前。現地の移動手段は、もちろん今もですが、トゥクトゥク一択というカオスながらもエネルギッシュな国でした。
しかし、わずか10年足らずで、この街は驚くべき変貌を遂げました。
現在では、主要な通りには信号機、横断歩道、そして中央分離帯が整備され、交通の流れは格段にスムーズになりました。さらに、水道水は飲用とまではいかないものの、安心して歯磨きや調理に使えるレベルまで改善。街中にはガラス張りのタワーマンションが次々と建設され、その景観はまさしく「発展途上」から「急成長都市」へと劇的に変化しています。
(2025年9月に開業したプノンペン・テチョ空港)
### 日本人増加と共に深化する「美食」の二極化と水より安いビール
この経済成長と並行して、プノンペンに在住する日本人の数も年々増加の一途を辿っています。それに伴い、日本食の店舗数も増加し、焼き肉、うどんはもちろんのこと、本格的な居酒屋、素材にこだわるラーメン、そして手打ちのそばなど、多岐にわたる業態が軒を連ねるようになりました。
共通して言えるのは、そのどれもが「美味しい」と現地の駐在員や富裕層からも評価されている点です。これは、単に日本人が増えたからではなく、彼らが求める「質の良い料理・お酒・サービス」を満たしている証拠でしょう。
カンボジア、特にプノンペンにおける消費市場は急激に二極化が進んでいます。富裕層(特に駐在員や現地のエリート層)は増え続け、彼らは「良いものにはしっかりとお金を払う」という消費行動を示します。
また、興味深いことに、現地産のビールはミネラルウォーターよりも安価なケースが多く、これは現地の生活インフラの発展途上段階と、嗜好品への課税が緩い経済状況を如実に示しています。居酒屋や焼き肉店にとって、ドリンク類、特にビールは重要な収益源ですが、この価格設定の常識の違いは、原価計算やプロモーション戦略を練る上で無視できない要素です。
成功している日本食(焼き肉、うどん、居酒屋、ラーメン、そば)の多くは、この高価格帯・高品質のマーケットをしっかり掴んでいるからこそ、高い支持を得ているのです。中途半端な価格帯で勝負しても、現地資本の安価な店舗に埋もれてしまうリスクが高いのが現状です。
(筆者撮影:プノンペンにある日系レストラン)
### 成功のカギは「日本人コミュニティ」への参入
現地で飲食ビジネスを成功させる上で、避けて通れないのが「日本人の駐在員のコミュニティ」への参入です。彼らは、プノンペンで最も早く「質の高いサービス」を求める顧客層であり、情報感度が高く、口コミの影響力も絶大です。
ビジネスの初期段階で、このコミュニティに受け入れられるかどうかが、その後の常連客獲得のスピードを大きく左右します。質の高い料理とサービスを提供し、信頼を勝ち取り、彼らを常連化させること。それが、現地での事業を軌道に乗せるための最も確実な一歩となります。
もちろん、それだけではカントリーリスク等の問題が起きた時に売上が激減してしまう可能性をはらんでいます。
なので、日本で言えば「ご新規/常連」比率と同じ様に「日本人/現地人」のように新しい分析も日次していかねばなりません。
### 事業者が知るべきリスク:社会情勢と未来への展望
インフラが整備され、市場が魅力的になる一方で、海外事業につきもののリスクも存在します。カンボジアの発展は目覚ましいですが、地政学的なリスク、例えば隣国タイとの関係などは常に頭の片隅に置いておくべき要因です。
しかし、この国の圧倒的な成長スピードと、それに伴う富裕層の増加、そして「美味しい」と認められれば強固な常連客になってくれる顧客の特性は、日本国内で飽和した飲食市場に挑戦するよりも大きなチャンスを秘めていると言えるでしょう。
「昔」のイメージにとらわれず、最新のプノンペンの変化を捉え、徹底的に質の高いサービスで勝負する。それが、今のカンボジア市場を攻略し、確実に収益を上げる唯一の方法です。
編集長コラム
2026.01.09
【成長率の罠と勝機】カンボジア・プノンペンで「高価格帯の日本食」だけが成功する構造~居酒屋・ラーメン・そばの進出で見る”駐在員コミュニティ戦略”と常連客獲得術

菅野 壮紀(かんの たけのり)
APPLILAB SINGAPORE CEO
飲食業界向けITソリューションを提供するAPPLILAB SINGAPOREのCEO。
シンガポールを拠点に、東南アジアを中心とした世界の飲食トレンド、Food Tech、店舗経営の最前線を定点観測している。
現地のリアルな事情に精通し、日本の飲食企業が海外の知見を取り入れるための架け橋として活動中。
https://applilab.sg/
























