アツアツの鉄皿の上で、ジュージューと音を立てて供されるステーキ肉。高級食だったステーキを、日常食として普及させたのが「ペッパーランチ」である。およそ20年前に誕生した同ブランドは、日本各地で展開されているほか、現在では海外でも店鋪を拡大している。今回は、経営母体であるペッパーフードサービス代表取締役・一瀬邦夫氏に、アジア出店への想いについてインタビューした。
—2005年にシンガポールに海外1号店を出店されましたが、その経緯と現在までの展開を教えてください。
海外出店の際にはシンガポール法人のSFBI(Asia-Pacific)Pte.Ltd様とAFC契約をし、これまでにシンガポール、インドネシア、タイ、中国、香港、フィリピン、マレーシア、台湾、マカオ、ベトナム、10カ国11地域に出店しました。又PFS社としましては韓国、そしてオーストラリアと2カ国への出店をし、合計12ヵ国に出店しました。現在は、海外だけで154店鋪(2013年9月現在)を展開しています。
1号店出店の際は、「是非、シンガポールで出店したい」とオファーを受けました。我々が開発した商品に魅力を感じていただいただけでなく、カウンターメインで券売機がある小さな店という事業モデルを見て「これだ!」と思っていただいたと。はじめは海外出店を意識していませんでしたが、実はこうしたパッケージが海外向きだったのだと思いますね。
—ここまで「ペッパーランチ」が海外で受け入れられた要因は、どこにあるとお考えですか。
はじめは、国内業態と全く同じものをやろうというポリシーがありました。しかし、まったく同じではやはり通用しない。その違いというのは、国ごとに明確にあり、例えば日本では牛肉を主に扱っていたのに対し、新たに豚肉や魚を扱ったメニュー展開を行ないました。
日本でいう「ペッパーランチ」はステーキを食べるというイメージだと思います。けれど海外では、アツアツの鉄皿に食材を乗せた「ジュージュー焼き」と認識していただいています。“ステーキ”という料理よりも、“ジュージュー焼いて食べる”というスタイルが定着したのです。このスタイルは他国ではなかったので、海外の方には新鮮に映ったと思います。さらにジュージュー焼きを売りにすることで、チキン、フィッシュ、野菜などと幅広い商材を扱うことができました。鉄板料理はこれまでもありましたが、鉄皿で提供し、自分で調理するという目新しさが受け入れられた要因の一つでもありますね。
また、「ビーフペッパーライス」が向こうの食文化に合っていたと思います。胡椒などのスパイスは万国共通で好まれていますし、醤油文化も浸透してきている。となると醤油、胡椒、ご飯という食が、抵抗なく受け入れられたのではないかと感じています。
—海外店鋪での利用シーンは、国内の使われ方とは異なりますか?
日本では一人利用の気軽な店として好まれていますが、海外では一人利用よりもファミリーや、カップルのデート利用が多いですね。日本の店鋪よりも若い人が入りやすいカフェのようなデザインにして、入りやすさを重視しています。
また、国によっても使われ方は異なりますね。例えば、シンガポールやオーストラリアでは日常食として利用されていますが、フィリピンやインドネシアではハレの日の食事として食べられています。日本人が「今日はちょっと奮発して叙々苑に行こう!」って感覚に近いでしょうか。日常食の国と、ハレの日使いの国、この2つに分かれますね。
—利用シーンの違いには、客単価が影響していると考えられますが、販売価格の決め方を教えてください。
具体的な客単価でいうと、シンガポールのレストランで700円くらい、フードコートだとポーションを減らして440~450円です。ローカルの中に入り込むには、そのくらいの単価じゃないといけない。それでも現地の人からすると、450円は高いのですけどね。
こうした販売単価は、その国のGDPや独自の価格設定根拠の構築、消費の傾向を見て決めていきます。例えば、GDPが低い国でもある程度の単価はとれるのです。
ペッパーランチの中でも好調な国は、ある程度レーバーコストが低くて、フードコストもコントロールできる国が伸びていると思いますね。人件費が安い国は利幅が大きくなるので、加盟したいというオーナーさんが多くなる傾向にあると思いますよ。
—加盟希望企業が多いと思いますが、出店ペースは年間どのくらいでしょう。また、店鋪展開で大変だと感じるのはどういったことですか?
出店ペースは年間30~50店鋪でしょうか。特に最近では、インドネシアとフィリピンの出店が著しく増えていますね。
展開の難しさは、加盟社選びです。我々がうまく出店できたのは、やはりSFBIさんと組めたことが大きいでしょう。たくさんいただくオファーの中で、誰と組むべきかという、選別の根拠をしっかりと持ってパートナーを決めています。しっかりとした候補者を選んでいることが、成功している秘訣だと感じていますね。
—では、出店した後の苦労にはどういったことがありますか。
細かいことですが、希望するクオリティの牛肉が手に入らない、ということでしょうか。そのクオリティの肉を扱うとなると、フードコストが跳ね上がってしまったり。そうした時は、赤身以外に脂身が多い部位をミックスしてコストを下げるなどで対応しています。
今は順調に店舗数を伸ばしていますが、はじめの頃は展開するための地盤作りが大変でしたね。一気に拡大するために、ソース、バターが供給できるOEM工場をタイ、中国などに造りました。それによりコストが下がって利益が上がり、より加盟に魅力を感じていただけるモデルを築けたと思います。
あとは、各店舗での品質管理が甘いため、食材管理や発注ミス防止などを現場スタッフに徹底的に指導しています。出店直後は店の売上げよりもまず、こうした細かな管理方法などを指導することで、品質向上に努めてもらっているのです。
—最後に、今後の出店計画を教えてください。また、アジア進出を考えている経営者の方へアドバイスをお願いします。
現在はアジアを中心に展開していますが、今後はオーストラリアをはじめとした新規参入国を広げていくことに注力したいと考えています。1つの国で店鋪を拡大するのと同時に、新たな国への出店を考えていきたいですね。2013年の着地は約160店鋪。年内であと10店鋪前後の開店を予定しています。
直近ですと、11月くらいには再度挑戦の台湾への新たな出店ができそうです。また、2014年3月にはカンボジア・プノンペンですね。イオンさんがプノンペンに出店するので、その中に出店する予定です。
私からはアドバイスできるのは、自分を信じて欲しいということです。自分を信じて、自信を持ってください。そして出店地を決めたら、その国を徹底的に研究して、受け入れられるビジネスとは何かを、再考していくと良いと思いますよ。まずは自分を信じること。そこからはじめてみてはいかがでしょうか。