バイヨーク・タワー(タイ最高峰/85階・304m)やホテルチェーンなどを有し、昨年エイチ・アイ・エス(H.I.S.)と国際チャーター便専門の航空会社なども設立した、タイの著名企業グループであるバイヨークグループは、バンコクで「牛角」を2店舗オープンさせるなど、近年外食事業にも進出している。
来日したバイヨークグループのピヤラート・バイヨーク氏に、タイでの外食マーケットの動向や日本企業に対する期待などを伺った。
バンコク生まれ育ちの32歳。
タイ最難関の国立チュラーロンコーン大学(Chulalongkorn University)卒業後、日本への語学留学を経て、イギリスのエクセター大学(University of Exeter)で修士号取得。
その後、25歳で一族が経営するバイヨークグループに入社。
ホテルのリノベーション事業担当からキャリアをスタートし、現在はマーケティングや事業開発の統括責任者を務めている。
ピヤラート氏は、年に5回は日本を訪れるという親日家で、好きな日本の食べ物は焼肉とショートケーキ。
英語・日本語に堪能で、高い知性と人柄の良さを感じさせる好男子である。
レストランのメニュー開発のために試食し続けて10kg太ったいう、外食業界の経営者にはつきものの悩みを抱えている。
—バイヨークグループ(BAIYOKE GROUP)について説明してください。
祖父が不動産会社を創業したことが、グループの出発点です。
プラトゥーナム(Pratunam)という都心エリアで土地開発を始め、当初は住宅・マンションの建て売りのみを行なっていました。
ただ住宅・マンションの建て売りは、一回限りの商売ですが、ホテルだと永続的に収入が入ってくるので良いと考え、ホテル事業への進出を決めたようです。
1981年にバイヨーク・スイートという最初のホテルをオープンさせ、その後も、バイヨーク・スカイホテルなどをオープンさせていきました。
グループ自体は、土地開発を今でもメイン事業としています。
バンコクだけでなく、プーケット、パタヤ、チェンマイでも土地開発をし、出来上がった物件は売るだけでなく、一部自社所有もしています。
—不動産・ホテルのイメージが強いバイヨークグループがなぜ外食事業に進出したのでしょうか?
バンコクで「牛角」のFC店などをやっていますね?
外食・飲料事業は、ホテルの中でもやっていますので、グループにとって必ずしも新しい事業とは言えません。
例えば、バイヨークタワー高層階にある自社運営のビュッフェレストランは、一日2,000~3,000人のお客様に利用していただいています。
が、ホテル外でレストラン(牛角)を展開するのは新しい試みでした。
なので、私は新規事業の開発に注力しています。
ラーメンや「東京ばな奈」など、日本の食べ物はタイでも大変な人気です。
日本食のマーケットは、タイでも伸びていて、ビジネスチャンスがあると思い、進出しました。
「牛角」のFC店を始めたきっかけは、そもそも私自身が焼肉好きだったからです。
日本に留学していた時に焼肉に出会い、大好きになりました。
「牛角」については、かねてよりメニューやコンセプトが面白いと思っていました。
アメリカ、シンガポールなど「牛角」の世界展開も始まっていたので、「タイでもやりたい」と思い、運営会社(レインズインターナショナル)にメールを送ったら、シンガポールのエリア統括拠点から返信がありました。
その後、交渉を経てタイのエリアフランチャイジーになりました。
—グループにおける外食事業の位置づけと、今後の事業展開について教えてください。
専門チームもあるので、今後も伸ばして行きたい分野です。
今は、日本の業態を展開することしか考えていません。
日本食はまだまだタイでいけるし、そしてタイに進出したら、成功しそうなブランドや業態が日本には沢山ありますので。
現在も新しい業態を探している状態です。
具体的には、知人や友人からお店の情報を得て、日本で自らの舌や五感で確かめています。
よければ自分からアプローチしていきます。
—日本の業態を展開してみていかがですか? 良かったことや悪かったこと、予想外だったことは何でしょうか?
「牛角」は、やってみたら、想定していたよりも良い結果が出ました。
利益もちゃんと取れて、お客さんにも喜んでもらえています。
自分のブランドであれば自由に何でも出来ますが、そうではないので。
例えば、材料。肉は、日本の「牛角」とは違う仕入れにせざるを得ませんでした。
牛の産地は、日本、アメリカ、オーストラリア、タイと様々です。
メニューも、「牛角」本部と一緒になってタイに合ったメニューを試行錯誤しながら作成しました。
やる前に一番心配だったのは、価格設定。
タイの人にとっては高い、1,000バーツ(約3,000円)という価格が受け入れられるかどうか不安でした。
日本の場合、「牛角」は600店舗あるので、スケールメリットがあり、安くて美味しい焼肉を提供出来ますが、タイだとそうは行きません。
結局、1,000バーツでもお客さんに支持されて、一安心でしたが。
現在店舗は2カ所にあり、日本人が多いエリアに出店していることもあって、日本人とタイ人のお客さんの比率は、50%ずつです。
タイのお客さんはいわゆる”ハイソサエティ”に属する人達が多いです。
—日本の外食業態は、タイなどアジアで展開するにあたり、どのような強みや可能性を持っており、またどのような点に気をつければ良いと思いますか?
日本企業や日本食の強みは、やはり「わかりやすい」ことと「食べやすい」ことでしょう。
日本食レストランをタイ全土で展開する「フジレストラン」と「Oishi group」のお陰で、タイでは普通に日本料理が食べられるようになり、その認知度や人気が上がりました。
今では、寿司、しゃぶしゃぶ、焼肉、トンカツ、天ぷらなどの料理は、タイ人皆が知っています。
対してヨーロッパの料理は、例えばパスタだけでも沢山種類があり、わかりにくく、馴染みがない。
そして入りやすい店もない。すなわち「食べにくい」のです。
東京だけでなく、大阪や北海道なども人気となっています。
先日訪れた新宿の伊勢丹や、御殿場のアウトレットモールでもタイ語が飛び交っていました。
タイ人は、高級なところも含め、日本の色々なレストランのことも知り始めています。
日本を旅行した人達が、自ら体験した食事についての情報を沢山発信しているのも、日本食にとって大いにプラスです。
また、東南アジアで一番日本食のマーケットが大きいのがタイです。
シンガポールなどに比べて人件費や家賃が大幅に安いのが、タイで事業展開するメリットだと言えます。
タイで外資系企業が外食事業で進出する際に気をつけないといけないのは、パートナー選びでしょう。
タイと日本では、価値観や考え方も違うし、法律なども違います。
私も色々な例を見ていますが、そうした溝が埋められず、結局失敗した合弁事業が数多くあります。
—タイの外食マーケットの展望について教えてください。
今後有望な業態なども含めて。
現在のタイの外食のマーケット規模は、4,000~5,000億円くらいですが、タイ人の所得水準も上昇しており、また外食比率も更に高まっているので、今後も増えて行くと思います。
デザートやスイーツなどは非常に有望だと思います。
ただし、100バーツ(約300円)以上の商品はまだ受け入れられないでしょうが。
—バイヨークグループの事業展開に関し、日本企業に期待することをお聞かせください。
タイのサービスレベルは、日本と比較するとまだまだ低いと思っています。
高い日本のサービスレベルを導入出来ると、他社との差別化につながるので、グループとしても何かしら取り組みたいと考えています。
また、サービスレベルを上げるような教育事業を日本企業とやれれば面白いとも思っています。
外食業態で言えば、価格、味、コンセプトのバランスが良い業態を持っている日本企業と組みたいですね。
特に、ワールドワイドに事業展開をしているけど、タイにはまだ進出していない外食企業には興味があります。
あと、ラーメン業態もやってみたいですね。
韓国ではソウルで2店舗展開しています。
東京で良い出店物件があったら紹介してもらえませんか?
今、業態を完成させようとしている最中ですが、伝統的・本格的なタイ料理です。
グループ内の、フアチャーン・ヘリテージ(HUA CHANG HERITAGE HOTEL)という5つ星ホテルの中で運営しています。
客単価は、ランチが500バーツ(約1,500円)、ディナーが1,000バーツ(約3,000円)です。
—最後に日本の読者に一言お願いします。
訪タイの際は、是非、バイヨークグループのホテル(http://baiyokehotel.com/)をご利用ください。タイ流の温かいおもてなしでお迎えさせていただきます。
※このインタビューは、Matching & Relationship Consulting Co.,Ltd.(通称:マークタイランド)(http://marcthai.com/)の岩原社長にご協力いただいた。マークタイランドは、飲食業、サービス業を専門に日本企業のタイでの事業展開を支援するコンサルティング会社である。